表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
277/790

第272話 獅子央孝恵の秘策

272


 西暦二〇X二年七月一二日の深夜。

 東京湾内部に造成された巨大人工島〝楽陽らくよう区〟の中心に位置する、金銀で飾られた豪奢ごうしゃな和風屋敷の書斎しょさいに座る、丸々とした恰幅かっぷくのよい中年男、獅子央ししおう孝恵たかよしは、ほっと安堵あんどの息を吐いた。


(二度のクーデターを鎮めて新しい英雄となった出雲いずも桃太とうた君が、冒険者パーティを作って、冒険者組合についてくれると約束してくれた。これなら賈南ハニーを八岐大蛇から助けだせるかも知れない)


 緊張のあまり、彼が着た薄手のパジャマは汗でびっしょりと濡れていた。

 異世界間通信を可能とする〝神通力じんつうりき〟がこめられた、金色のボールストラップつきの携帯端末から届く音を聴くに、どうやら出雲いずも桃太とうたと彼の仲間達は、宴会と会議を終えて、それぞれのテントに戻っていったらしい。

 今、携帯端末の向こう側から聞こえてくる息遣いきづかいは、勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟の代表、五馬いつま碩志ひろしだけだ。 


「碩志君。この携帯は明日の朝、桃太君に渡して欲しい。代わりの携帯端末は、次の補給ポイントに回しておくんだな」

「わかりました。ですが、孝恵代表。日本政府からの依頼とはいえ、八代勇者パーティのうち二つ、六辻ろくつじ家と〝SAINTS(セインツ)〟、七罪ななつみ家と〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟がクーデターを引き起こそうとしている今、桃太さんと焔学園ほむらがくえん二年一組をクマ国へ行かせて良いのですか? 彼らには地上に戻ってもらった方が、冒険者組合の士気があがると思いますが……」


 碩志の考え方は一理あるが、孝恵は桃太を呼び戻すつもりはなかった。


「碩志君。これは優先度の問題なんだな。

 コードネーム〝ミスターシノビ〟こと、がい君が奪ってきてくれたクーデター計画書のおかげで、日本政府転覆にほんせいふてんぷくくわだてを知り、先手を打てるようになった。

 しかし、結局のところ、六辻ろくつじ七罪ななつみ、両家を支援する異世界クマ国の過激派団体〝前進同盟ぜんしんどうめい〟をなんとかしないと根本的な解決にならない。

 その為には、桃太君達にクマ国へ行ってもらう必要があるんだ、な」

「乂兄さん、ミスターシノビって……、相変わらず変なセンスだなあ。と、失礼しました。確かに〝前進同盟〟が介入しなければ、勇者パーティ〝SAINTS(セインツ)〟と〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟がかくも強引に日本国へ反旗はんきひるがえすことはなかったでしょう」


 碩志の声は、年齢以上に冷静な彼らしくもなく、震えていた。


「乂兄さんと桃太さんが、四鳴しめい啓介けいすけと〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟の反乱を命懸けで止めてくれたのに、この有り様です。ボクは〝前進同盟〟のオウモ代表が恐ろしい。彼女は我々には理解できない、異世界人の視点で動いています。八岐大蛇を倒すために、まるで地球全てを駒と見ているようだ」

「自分で言うのもなんだけど、ぼくとは次元の違う指導者なんだ、な」


 孝恵が困ったように呟くと、携帯端末の向こうから碩志の苦笑する声が届いた。


「ですが、孝恵様、自信を持ってください。桃太さんは自分で冒険者パーティを作ると決めて、他の誰でもない貴方に着くと仰ったんです。貴方はダメなところも多々あるおひとですが、一番、人間味がある」

「それは褒め言葉なのかい? だが、ありがとう、碩志君。確かにぼくは、鬼にはなりたくない。だから、冒険者組合代表として、なすべきことをなすとしよう。明日改めて連絡するよ」


 孝恵は碩志との通話を終えた後、シャワーを浴びて服を着替え、携帯端末を再び手に取って、とある連絡先にコールした。


「オウモさん、夜分すまない。耳寄りな情報を持ってきたんだな」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者組合の認識では、前進同盟の目的は八岐大蛇討伐なのですね。 桃太には地球上に自分たちの国を作るって言っていましたが、果たしてどちらが真実なのか。 前者であれば、C・H・Oとは利害が一致し…
[一言] >「オウモさん、夜分すまない。耳寄りな情報を持ってきたんだな」 オウモ「生憎だが、夜食の処分は手伝えないね(孝恵の背後に大量に届けられてる最中の手作り料理から目をそらしながら)」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ