第271話 地球と異世界クマ国、その行方
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「待ってください。孝恵校長、クラスの皆にクマ国のことを明かしていいんですかっ! 日本政府と冒険者組合は、これまで異世界であるクマ国の存在をひた隠しにしていたじゃないですか。親書なんて、送っちゃっていいんですか?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、驚きのあまり、異世界間通信が可能な携帯端末に向かって叫んでいた。
通話相手である冒険者組合代表、獅子央孝恵は、桃太の混乱を予期していたかのようにゆっくりと語り始めた。
「桃太君。クマ国の反政府組織、〝前進同盟〟が、地球各国へ積極的に介入したことで、中東やアフリカにも混乱が広がったんだな。それで貿易に不都合が生じたアメリカやヨーロッパは、〝前進同盟〟へ対抗するために、異世界クマ国の正当な政府であるカムロ政権に協力し、その存在を遅くとも五年後には公表すると決めたんだ。我らが日本国も地球各国と歩調を合わせるため、大急ぎで調整中なんだな」
桃太は、孝恵の説明を聞いて、胸に強い痛みをおぼえた。
彼の師匠であるカムロは、地球の国々の善意を信じて交渉を続けたのに、クマ国の存在を認めさせるのに、数十年という時間がかかってしまった。
それに対し、クマ国で指名手配中の過激派団体〝前進同盟〟の首魁であるオウモは、わずか半年足らずの間、地球上で好き勝手に暴れただけで最後の一手を仕上げている。
「おいおい、碩志。日本国も冒険者組合も、公式で初めての使者を学生に頼っていいのかよ?」
「乂兄さん。カムロ様の指定する、〝信用できる日本人〟は、出雲桃太さんと、矢上遥花さんの二人だけなんですよ。親書もあくまで儀礼的なもので、内実は外交官の奥羽以遠さん達が詰めてくれる、はずです……」
桃太は、相棒である金髪少年、五馬乂と、黒い癖毛の少年、五馬碩志の口論を聞きながら、牛に似た仮面をかぶる足のない幽霊、カムロの姿を脳裏に浮かべていた。
家出同然に飛びだしたから恥ずかしいが、聞きたいことや教えてもらいたいことが山ほどあった。
「孝恵代表、カムロさんにも新パーティ設立について相談したいんですが、構いませんか?」
「もちろんだとも。桃太君、キミが新パーティをつくり、カムロさんを訪ねることで、〝前進同盟〟をおおいに揺さぶられるんだ、な。これなら、クーデターも早期に鎮められそうだ。新学期からは忙しくなる。だから、夏休みが終わるまでは、クマ国で修行するもよし、温泉や海水浴で骨休みをするもよし。今後のために視野を広げて欲しいんだな」
桃太は、孝恵の言葉に深く頷いた。
クーデター阻止のためにできることをしたいのは勿論だが、クマ国でカムロと会うことがきっと一番良い結果に繋がるのだろう。そう信じることにした。
「わかりました。行ってきます。じゃあ紗雨ちゃん、乂。クマ国へ帰ろうか」
「わーい、実家にご挨拶サメエ!」
「やれやれ、退屈しそうにないぜ」
桃太は無邪気に笑うカムロの養女、建速紗雨を左腕で抱きしめ、乂と右手でハイタッチをかわしながら、クマ国と、自らが率いる新しい冒険者パーティに想いを馳せた。
(俺が新しいパーティを作る、か。リッキーが生きていた頃は、冒険者パーティ〝G・O〟の再興を手伝うつもりだったのに、人生どうなるかわからないな)
どうなるかわからないといえば、桃太は、一度は共闘した〝前進同盟〟と敵対関係になっているのも、気にかかっていた。
(オウモさんは何を考えているのだろう? そして、黒騎士。お前は今、どこで何をやっている?)
あとがき
第三部を最後までお読みいただきありがとうございました。
応援や励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)
第四部は、八大勇者パーティのクーデターだけにとどまらず、前進同盟やクマ国も深く関わってきます。
明日、登場人物紹介を投稿した後、小休止をいただき、九月二二日金曜日より連載を再開します。お楽しみに。