第269話 家族の安否
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「みんな、ありがとう。これなら新しい冒険者パーティだって作れそうだ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太がぶちあげた新冒険者パーティ設立計画は、まだ朧げながらも現実になろうとしていた。
「でも、桃太おにーさんの、ご家族は大丈夫? 四鳴家と〝S・E・I 〟が襲ったって聞いたサメエ」
白いジンベエザメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、仲間達と共に小さな手を重ねつつも、心配そうに桃太の顔を見上げた。
「建速様が心配するのはごもっともですね。連絡が遅れて申し訳ない。実は桃太さんのご家族は〝S・E・I 〟に襲われた際に、米国へ避難していただいたきました。こちらは、かの有名なテーマパークで撮られた写真です」
桃太は、八大勇者パーティのひとつ、〝N・A・G・A〟の代表である、黒い癖毛の少年、五馬碩志が鞄の中から取り出した封筒を受け取った。
その中には、異界迷宮内で撮影するモノクロの銀板写真と違い、地上にいる事を示す、薄くて軽いフルカラーの写真と、無事を知らせる手紙が入っていた。
「そっか。父さんや母さんも巻き込んじゃったんだな」
「桃太おにーさん?」
桃太は久々に見る父母の顔をじっと見つめた後、紗雨がかぶるギザギザの歯が描かれたフードを外して、彼女を抱き寄せた。
紗雨の暖かさが、桃太の恐怖に凍てつく心を癒してくれる。
「大丈夫だよ、紗雨ちゃん。父さんや母さんに恥じないよう、俺はここまでやってきたんだから。それにアメリカのテーマパークなんて、こんな機会じゃないと行けないだろうから、親孝行かも知れない。こんなことを書いて送ったら、怒られるかな?」
「どんなものであれ、連絡は嬉しいものですよ。桃太さんのご家族には、このまま情勢が落ち着くまでは、アメリカで過ごしていただきましょう。貴方がご無事に戻られるのが、ご家族にとっても一番の孝行でしょう」
桃太の虚勢まじりの発言に対して、碩志は日に焼けた頬を緩めて返答した。
ついでに行方不明だった兄、金髪の長身少年、五馬乂へ『生きていたのなら連絡ぐらい寄越せよ』という怒りのこもった視線を送るが――。
「シャシャシャ。むしろ親父さんやお袋さんの方が心配しているんじゃないの? 相棒は無茶するからな。オレも何度、つきあって肝を冷やしたことか」
乂は、先に弟の許しを得たからか、喉元過ぎれば熱さ忘れるといわんばかりに、まるで懲りた様子はなかった。
「乂兄さん。そんなに、桃太さんが心配でしたら、今からでも五馬家と〝N・A・G・A〟の代表になって、新しい冒険者パーティをサポートするというのはどうでしょう?」
「え、ヤダ」
おまけに碩志の誘いを、速攻で断る始末だ。
「ヤダって何ですか、泣きますよ」
「泣くどころか額に青筋立てて怒ってるじゃねえか。凛音と碩志がガミガミ言い合う職場とか、胃がもたん」
「ふふふ。碩志君、乂のことは任せておいてね」
「ぐぬぬ。凛音姉さんは、乂兄さんに甘いからっ」
「サメエ、これが嫁と小舅の戦争。恐ろしいサメエ……」
「桃太くんのご家族にこれ以上、心配をかけないよう。お姉さんもお手紙を書きましょう」
桃太は、そんなドタバタした平和な光景を見て目を細めた。
「まったく心強いよ」
あとがき
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