第25話 必殺技とダンス習得
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「ごほん、桃太君。昨日はすまなかった。今日は目にアイマスク、耳には耳栓をつけて、このはたきを避けつつ、屋敷の掃除をしてもらおうか」
五日目と六日目。
桃太は空飛ぶはたきに襲われながら、掃き掃除や拭き掃除に勤しんだ。
「あ痛っ、カムロさん。これは無茶では?」
「桃太君。キミが宿す〝巫の力〟を使えば、どこに何があるかを感じられるはずだ」
桃太は感覚を研ぎ澄ますものの、視覚と聴覚を遮られては、避けるに避けられない。
「ふふ、懐かしいなあ。僕も昔、はたきで修行したものだ」
「カムロさんも、同じ練習をしたんですか?」
「うん。師匠が操る一千本のはたきに追われて、平衡感覚と瞬間判断力と身体動作を鍛えたよ。目と耳を開けてもいいから、一度やってみるかい?」
「また、今度にします」
桃太は遠慮することにした。一本のはたきなら当たっても痛いだけで済むが、千本も受けたら無事ではすまないと考えたからだ。
(そうか、一本なんだ。ならば、把握すべきは全体の気配。避けるのは異物!)
カムロとの会話が切り口となったのか、桃太はやがて障害となるはたきをかわし、清掃を進めた。
「カムロさん、三味線ってどう弾くんですか?」
「おっ、やってみるかい?」
そして午後は、三味線が気になったので、カムロに弾き方を教えてもらった。
演奏も鍛錬に負けないくらい難しかったが、カムロは上機嫌で付き合ってくれた。
「ふふ、セッションも久しぶりだ。よし本気で……」
「時間結界解除からのぉ、サメエウルトラパンチ!」
「本気はやめろって言ってるだろ、ガンコジジイ!」
なお、カムロが本気を出そうとしたところ、必死の形相で駆けつけた紗雨と乂に殴られ、牛頭仮面をつけた保護者は再び空まで吹っ飛ばされた。
「ちょっとくらい、いいじゃないかああっ」
そして七日目の、一一月一六日。
「ごほん。まずはダンスから見せてくれるか?」
「はい、行きます!」
桃太がステップを踏み、拳を突き出し、技を繰り出しながら舞う光景を、カムロは牛頭の仮面の奥の瞳を細め、厳しくも優しく見守った。
「キレのある見事な舞踏だった。鬼に憑かれた人の邪気も、きっと祓えるさ」
カムロは、免許皆伝とばかりに惜しみない柏手を打った。
「それでは、〝生太刀・草薙〟のやり方を教えよう。こうやって、こうだ。今の桃太君ならきっと衝撃を知覚し、自由自在に操れるはずだ。でもムカデや蜂に刺されると危ないから、休耕地の隅でやろう」
「いいえ、真ん中でやらせてください」
桃太は七日間の苦しい修行を乗り越えた結果、カムロの言う通りに肉眼で捉えずとも、自身に迫る敵意を感知できるようになっていた。
「TATATA!」
「BUBUBU!」
カタカタと足を鳴らして集まってくるムカデ、ブンブンと羽音を立てて迫る蜂、人の顔ほどもある大きさの害虫達に臆することなく、桃太は伝授された必殺技を放つ。
「これが俺の、〝生太刀・草薙〟だっ!」
桃太を中心に草を薙ぐように、衝撃波が円状に走った。
「TATA……」
「BUBU……」
射程範囲こそ半径二mであったものの、桃太は衝撃を操作することでアリやミミズといった益虫を避けて、危険なムカデと蜂だけを打ち倒し、三六〇度全方向の草を抜くことができた。
「よくやったな、桃太君!」
「カムロさん、ありがとうございました!」
桃太は七日間の修行を乗り越え、奥義を習得したことで大きな自信をつけた。
「おや、まだムカデの足音と蜂の羽音が残っているぞ。逃げるんだ、桃太くん!」
「ならば、もう一撃。あれ、体に力が入らないぞ? ひええっ」
その後、桃太は射程外にいた害虫の群れに追いかけられたが、まだ彼に伸び代があるという証左だろう。
あとがき
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