第264話 第三のクーデター阻止のために
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「六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟が、異世界の第三勢力である〝前進同盟〟を悪事に利用しているんだな。マイハニー……ごほん。ぼくの元嫁である、獅子央賈南が残した引き継ぎ資料を見るに、両家はずっと前から真っ黒なんだな」
現在の冒険者組合を束ねる代表、獅子央孝恵が断言すると……。
かつて日本政府に反旗を翻した少女、三縞凛音も白い獣耳を忙しなく動かしながら、首を縦に振って補足した。
「桃太君。孝恵代表のいう通りよ。
両家は、先代の獅子央焔代表が病に倒れた頃から悪事に手を染めて――、
弘農楊駿が勇者党を率いて政変を起こした一〇年前から――、
まったく歯止めが効かなくなったみたい。
六辻家と〝SAINTS〟は、ワタシ達、〝C・H・O 〟や他の冒険者パーティが討伐したモンスターの素材をしょっちゅう奪っていたし、七罪家と〝K・A・N〟は、外国の暴力組織と組んで麻薬や覚醒剤の密売を平然と行っていたわ。
ありもしない借金をでっちあげて、死んだ冒険者の遺族を奴隷のように売ったり、冒険者の死体を売り買いしたり、なんて目撃情報もあったわよ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、八大勇者パーティにいまだ幻想を抱いていたため、三縞家と〝C・H・O 〟を率いた凛音の発言に大きな衝撃を受けた。
「凛音さん、待ってくれ。六辻家当主の詠さんを見ただろう。ちょっと変わってるところもあるけど、まさに勇者ってひとじゃないか。パーティに参加する冒険者だって大勢いるんだから、ちょっと悪人が目立つからといって、そこまで言わなくてもいいだろ」
桃太は、仲間達へすがるような目線を送ったが――。
「サメエ。桃太おにーさん。善人が混じっていても、大半が悪人だったらどうしようもないんだサメエ。実はクマ国の猟師さんも、地球の冒険者に何度か獲物を取られたり、追い剥ぎにあったりしたサメエ。中でも〝SAINTS〟は特に悪質だって、ジイチャンのブラックリストに入っていたサメー」
「桃太くん。詠さんは善人だからこそ、采配がとれないよう屋敷に押し込められ、一族に都合の良い影武者が幾度も立てられたのでしょう。私も獅子央賈南様と共に〝K・A・N〟を調査したことがあります。亡くなった冒険者の遺族が行方不明になったり、死体が不自然に逸失したりといった異変が、数回に亘って確認されたのは事実です。その時は、七罪業夢と彼に協力する外国の暴力組織の圧力によって、立件前に潰されました」
残念ながら、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟の闇の深さが、更に増しただけだった。
「シャシャシャ、残る勇者パーティも、四鳴啓介が好き放題していた〝S・E・I〟と同じくらい性質が悪いじゃないか。八大勇者パーティの腐敗は、ここに極まれりだぜ」
「乂。日本国の冒険者パーティは、その悪行を知ってなお、八大勇者パーティを怖れて従っているわ。だからワタシは、一度何もかもを壊そうと思ったのよ。……もっとも、身勝手な正義に酔って、ワタシ達〝C・H・O 〟自体がテロリストになっちゃたんだけどね」
桃太の相棒である五馬乂と、その幼馴染である三縞凛音は、八大勇者パーティの元代表という立場にあったゆえか、既にクーデターが起きるという現実を受け入れたようだ。
それでも、桃太は諦めたくなかった。
(クーデター蜂起は防げないのかもしれない。だったら、少しでも早く終わらせる方法はないのか? 俺に出来ることは……、待て。逸るんじゃない。冒険者組合だけで無理なら他の組織を頼るとか、可能性を探るんだ)
あとがき
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