第263話 地球と異世界クマ国、その繋がり
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「孝恵校長、警察の捜査で先手を取れば、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟、二つの勇者パーティのクーデターは阻止できますか?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が問いかけると、冒険者育成学校〝焔学園〟の校長であり、同時に冒険者組合の代表を務める獅子央孝恵は、異世界間通信が可能な携帯端末ごしにうんうんと唸って、絞り出すように答えた。
「桃太君、ボクの力不足を謝罪する。彼らがここまで強行に反乱計画を進めるなんて、まるで予想できなかったんだ。乂君が奪ってくれたクーデター計画書を証拠に警察が捜査すれば、容疑者を逮捕して戦力を削ることもできるし、冒険者組合が迷宮と地上から挟撃を受ける、最悪の事態は避けられるんだな」
「良かった、それなら」
桃太は緊張を解こうとしたものの、孝恵の言葉はいまだ携帯端末から流れていた。
「でも、クマ国の過激派団体、〝前進同盟〟が支援した影響は絶大なんだな。〝三連蛇城〟が建てられた位置を見るに、〝SAINTS〟と〝K・A・N〟は短期決戦に失敗しても、長期戦闘に切り替えられるよう織り込み済みのようなんだ。防戦は可能でも、クーデターの阻止や早期鎮圧は難しいんだな」
「えっ、こんな不便そうな場所に建っているのに?」
桃太は、無数の見張り台と岸壁を利用した砦、三つの城が並ぶ要塞、〝三連蛇城〟が写されたモノクロ写真を見て首を傾げた。
異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟といえば、異界迷宮の中でも深層ということもあって、ベテラン冒険者でもなかなか近づかない、むしろ近づけない辺鄙な階層だからだ。
「〝残火の洞窟〟は、今の日本国にとって命綱である、天然ガスや石油石炭といった燃料資源が豊富なんだな。その上、異世界クマ国に繋がる〝時空の裂け目〟もそこかしこにあるから、いざとなれば、〝前進同盟〟を頼って補給もできるんだな……」
桃太は想像もしなかった立地条件に、言葉を失った。オウモが率いるクマ国の反政府組織、〝前進同盟〟が支援するということは、地球上に縛られないメリットがあるのだ。
「桃太おにーさん。ひょっとしたら、〝蒸気機関つき大八車〟や、〝内部空間操作鞄〟は、クマ国で作られているのかも知れないサメー。クマ国は地球と同じくらい広いから、カムロジイチャンでも目が行き届かない場所があるサメー……」
「シット! アカツキさんたち保守派の特務部隊は真面目に探すだろうけど、コウエン将軍ら軍部の革新派には〝前進同盟〟にシンパシーを感じている奴も多いから、見過ごされているかも知れないんだぜ」
クマ国のことをよく知る銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、金髪の長身少年、五馬乂が苦々しくぼやく。
「それじゃあ、オウモさん達〝前進同盟〟が二つの勇者パーティを操っているってことなのか?」
「それは違うんだな。むしろ、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟が、異世界の第三勢力である〝前進同盟〟を悪事に利用しているんだな。マイハニー……ごほん。ボクの元嫁である、獅子央賈南が残した引き継ぎ資料を見るに、両家はずっと前から真っ黒なんだな」
あとがき
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