第262話 獅子央孝恵の会議参加
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「ああ、そういうことかあ。カムロさんと奥羽以遠さんがやっていた、〝異世界間〟オンライン会議と同じ理屈か!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、金色に輝くビー玉大のボールがつけられた携帯端末のスピーカーから、冒険者組合の現代表にして、冒険者育成学校〝焔学園の校長〟、獅子央孝恵の声が響くのを聞いて、かつてクマ国で見た光景を思い出した。
「桃太君は大型テレビを使った、会談方法を知っているのかい? だったら話は早いんだな。八岐大蛇の呪いで、異界迷宮カクリヨやクマ国の中では機械が使えないんだけど、カムロさんやオウモさんには、妨害を中和する〝神通力〟があるんだ。携帯ストラップについた金色の宝珠は、その力が込められているから、それぞれの世界を流れる気脈さえ安定していれば、携帯端末でも通話が可能なんだな……」
桃太は、相棒の金髪少年、五馬乂や、銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、クマ国では定期的にサメ映画上映会をやっていると聞いて不思議に思っていたが――。
地球上の機械を動かす手段があるのなら、上映手段もわかりやすかった。とはいえ、カムロとオウモにしか作れない〝神通力の宿った宝珠〟が必要らしい。
「その宝珠を持っていると言うことは、孝恵校長はカムロさんと繋がりがあったということですか」
「実はそうなんだよ! 驚いたかい? ボクも冒険者組合代表として日々頑張っているというわけさ」
孝恵は、携帯端末越しにもわかるくらい弾んだ声で、ドヤ顔をキメたようだが――。
「シャラップ(だまれ)! なーにを偉そうに抜かすか。クマ国との交渉は、半分以上、オレと凛音に頼りきりのくせに。だいたい孝恵のオッサン、こいつは立派な盗聴だぜ!」
そもそも黙って会議に参加していたというマナー違反に対し、彼の親戚である乂は金色の髪を逆立てて怒り――。
「ぷんすかサメー、プライバシーの侵害サメエ」
紗雨も、羽織ったジンベエザメの着ぐるみの中で頬を怒りに赤く染め――。
「ワタシには前科があるから受け入れるけれど、桃太君達は違うでしょう? 最初に一言くらい言いなさいよ」
「碩志君は、孝恵校長の数少ない味方のはず。自分を慕ってくれる相手にまで汚れ役を押し付ける。そんなだから代表なのに、人望がないんですよ」
孝恵と面識のある、元八大勇者パーティ、〝C・H・O〟代表の三縞凛音や、焔学園教師の矢上遥花までが厳しい態度で臨んでいた。
「ご、ごめんなさい、なんだな。お祝いの邪魔をしたくなくて、聞いているだけにしようって、本当なんだな」
携帯端末から聞こえてくる声を見るに、獅子央孝恵は気が弱いのだろう。
やたら腰が低かったし、発言の内容からもおそらく本当だろうと、桃太は直感した。
(最初は戦勝祝いから始まって、乂が碩志君に無茶振りして、途中から会議に変化したから、上役としては口を挟みにくいよね……)
あるいは、生徒のプライベートな飲み会に、校長が顔を出したら萎縮するだろうと、気を使ってくれたのかも知れない。
「孝恵校長、俺はもう気にしていません。警察の捜査で先手を取れば、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟、二つの勇者パーティのクーデターは阻止できますか?」
あとがき
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