第260話 獅子心中の虫、八闇家
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西暦二〇X二年七月一二日夜。
焔学園二年一組の研修生、出雲桃太は、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の代表、五馬碩志から、残る八大勇者パーティのうち、〝SAINTS〟と〝K・A・N〟が恐るべきクーデター計画を練っていたことを聞かされた。
「乂兄さんが奪取したクーデター計画書によれば、今年の八月前半に六辻家と〝SAINTS〟が異界迷宮カクリヨ内部から日本政府に宣戦布告し、冒険者組合の討伐軍をひきつけた後、七罪家と〝K・A・N〟が地上で蜂起。両軍による挟み撃ちを想定していました」
「……」
桃太は、浅葱色の浴衣から手を伸ばし、額に刻まれた十字傷に触れた。驚きのあまり舌が張り付いて、うまく言葉を紡げなかったのだ。
「もしも、乂兄さんが砦に潜入して情報を得てくれなければ、この卑劣な挟撃が成功し、日本政府はともかく、冒険者組合は今度こそ陥落していたでしょう」
「待ってくれ、碩志君。冒険者組合にも戦力はあるはずだ。そうそう一方的にやられるなんておかしいじゃないか?」
碩志のいささか極端すぎる暴論に、ようやく口が動いたため反論したが――。
「桃太さん。現在の冒険者組合を支える戦力は、五馬家と〝N・A・G・A〟、八闇家と〝TOKAI〟です。しかし、ここだけの話、代表の八闇越斗は信用なりません。最悪の場合、防戦中に後ろから刺される心配がありました。ただでさえ二倍の戦力に挟まれている最中に、内部から喰い破られてはなすすべがない」
桃太は、碩志に断言されて思わず息を呑んだ。
「相棒。八闇家を信じるのは、やめておけ。一〇年前も、越斗は味方の振りをして二河家と五馬家に近づいて、横腹をぶすりと刺してきやがった」
「勇者パーティ〝TOKAI〟は、昔クマ国に大迷惑をかけたって、ジイチャンが怒っていたサメエ」
「越斗さんのリーダーとしての振る舞いは極めて独裁的で、風評も良いとは言えません。根拠のない噂話ですが、政敵を暗殺して回っているとすら、まことしやかに囁かれています」
桃太の相棒である黄色い浴衣を着た金髪少年、五馬乂も――。
クマ国代表の養女であるジンベエザメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、少女、建速紗雨も――。
元ベテラン冒険者で、栗色の髪を赤いリボンで結び、桜色の浴衣を着た担任教師の矢上遥花も――。
大なり小なり八闇越斗の人となりを知る者は、揃って彼を警戒していた。
「矢上先生の仰る通り、八闇家の周囲で不審な他殺事件が相次いでいるのは事実です。八闇家は、六辻、七罪との内戦中に、孝恵代表やボクを手にかけて、冒険者組合をのっとろうと謀っている恐れすらあります。乂兄さんにも気をつけるよう、忠告したかったのです」
「碩志、大丈夫だ。八闇の危険性は身にしみているぜ」
「八闇家と〝TOKAI〟は、いつ裏切ってもおかしくない危険なパーティ、冒険者組合に巣食う獅子身中の虫、ってことなのか……」
桃太は、じっとりと冷たい汗が流れるのを感じた。だが、このまま流されるわけにはいかない。
「碩志君、日本が危機に瀕していることはよくわかった。だから俺は、勇者パーティ〝SAINTS〟と〝K・A・N〟のクーデターを止めたい」
あとがき
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