第257話 内部空間を操作した鞄
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「いやいやいや、多過ぎない? どこに入っていたのさ?」
「桃太さんの同期生の、祖平遠亜さんという方も持っていましたが、六辻家、いえ、〝前進同盟〟が売り出し中の、〝内部空間を操作した鞄〟ですよ」
どう見ても鞄に入りきらない大量のファイルを取り出した黒い癖毛の少年、五馬碩志の説明に、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、級友である瓶底メガネをかけた白衣の少女が使う、白いスーツケースを脳裏に思い浮かべた。
遠亜が、先のクーデターを引き起こした四鳴啓介や、キャンプを襲撃した石貫満勒と戦った折に、鞄から出した大量の武器や罠を投げつけていたことを考えると、不思議はないのかも知れない。
「相棒。オレは六辻の砦からお土産代わりに持ちだしたんだが、こんな小さな鞄なのに軽トラックの荷台並みの荷物が入るんだぜ」
「おまけに重量は据え置きで、ワタシが三毛猫の姿でも運べるの」
黄色い浴衣を着た金髪の長身少年、五馬乂と、白い花柄の浴衣を着た少女、三縞凛音のレビューを聞いて……
「凄い。それは便利だね。俺も給料が入ったら買っちゃおうかな」
「サメー、紗雨も欲しいサメー」
桃太だけでなく、白いジンベエザメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も目を輝かせた。
「桃太さん。建速さん。その鞄のお値段は高級車数台分だそうですよ」
「え?」
「サメーっ?」
しかしながら、碩志が残酷なお値段を告げたことで、二人は出鼻をくじかれて目を白黒させた。
「しかも、そんな目を見張る価格なのに、冒険者だけでなく、自衛隊や外国の軍隊、民間企業に、犯罪シンジゲートに至るまで――あらゆる層が買い求めているそうです」
「シャシャシャ。過激派の製品らしく、犯罪にも向いた仕様なんだろうよ。危険な武器も薬物も運びたい放題だからな。地球上にこんなもんが流出したんだ、ヘンクツジジイの胃が心配だぜ」
「カ、カムロジイチャンの苦労がしのばれるサメエ。ひょっとして〝前進同盟〟は、ストレスでジイチャンを暗殺しようと狙っているサメエ?」
「……オウモさんならやりかねないから困る」
碩志の解説を聞いて、桃太も、乂も、紗雨も、一度は共闘したはずの組織、〝前進同盟〟の危険性を改めて認識し、がくりと肩を落とした。
「マッドサイエンティストなオウモさんと、二つの〝鬼神具〟を使いこなす黒騎士だけでも強いのに、手強いメンバーが増えちゃっていたし」
「やたらタフな石貫満勒に、伝説の妖刀ムラサマ、瑠衣姉さんに似たセグンダ。あんの過激派ども、ちょっと見ない間に、いったいどこからスカウトして来たんだ?」
「ガイ、詠ちゃんの家庭教師さんも忘れちゃ駄目サメー……」
紗雨があげた人物名を聞いて、彼女と面識のある担任教師、矢上遥花の表情もくもった。
「炉谷道子さんですね。何度か異界探索を一緒した経験がありますが、個人戦闘能力にとどまらず、部隊指揮や兵站維持にも長けた一流の冒険者でした。〝前進同盟〟につくなんて、今でも信じられません」
遥花の嘆きにテントはしずまりかえった。
碩志はしんみりした空気を変えるべく、パンと手を打った。
「落ち込んでばかりもいられません。まずはやるべきことに集中しましょう。差し迫った脅威として、六辻家と〝SAINTS〟は〝前進同盟〟の支援を受けて、異界迷宮カクリヨの第八階層、〝残火の洞窟〟に日本政府へクーデターを起こすための拠点を築いています。こちらは、乂兄さんが銀板形式カメラで撮影した現場写真です」
あとがき
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