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第24話 過酷な修行を乗り越えろ 

24


 それから一週間、桃太とうたはカムロの指導を受けた。


遥花はるかさんが半年鍛えただけあって、動きの基本はできている。だから、今以上に平衡感覚へいこうかんかくを鍛えよう」

「うわっ、重いっ」


 修行は過酷だった。

 一日目と二日目。桃太は両腕で水の入った木桶きおけを水平に保ち、人一人が通れるのがギリギリの丸太橋を数えられないほどに往復させられた。


(ほんの半日なのに、まるで何年も修行しているかのようだ。うぷっ)


 桃太は疲労と痛みから何度となく気絶した。

 しかし、練習の甲斐はあったのだろう。


「「はっけよい、のこった!」」


 桃太は金髪のなんちゃって不良少年、がいに誘われた相撲大会で、丸太のような腕と足を持つ、筋肉質な河童の少年と組み合った。


「うおおおおっ」

「さ、さすがガイさんが親友と認めた男!」


 桃太は一日目こそ惨敗ざんぱいしたものの……。


「す、すげー。サブローの腰を掴んで、上手でぶん投げたぞ」

「それでこそ相棒、次はオレだ」


 二日目には河童の少年に勝利し、がいとも熱烈な試合を繰り広げた。


「桃太君。〝生太刀いくたち草薙くさなぎ〟とは、キミの肉体、骨と筋肉が生み出す衝撃を拡大する技だ。より強い衝撃を伝えるために、肉体を効率よく動かすにはどうすればいいか、身体に馴染なじませるんだ」


 三日目と四日目。

 桃太はカムロの弾く三味線の音色に合わせて、拳舞けんぶの如きダンスに明け暮れた。

 これが想像以上にキツく、小休止の度にへなへなと崩れて、頭から水をかぶって喉をうるおした。


「カムロさん、このダンスはなんて言う名前なんですか?」

即興そっきょうだが、〝勇者パーティに猛省もうせいを促す舞踏ぶとう〟とでも名付けようか」

「あはは、なんだかこれだけでも、リッキーの仇を討てそうですね!」


 桃太の軽口を、カムロは笑わなかった。


「確かにダンスには〝鬼の力〟という呪詛じゅそはらう力もある」

「え?」


 桃太は想像もしなかったカムロの返答に、一瞬言葉を失った。


「だがそれ以上に、復讐心を昇華して、心を律するための手段でもあるんだ」


 牛の仮面を被った幽霊カムロは、相変わらず見えない足で近づいて、桃太の肩をぐっと掴んだ。


「桃太君。復讐はキミの心に火を灯し、熱を与えてくれるだろう。けれど、もしも憎悪だけに囚われたなら、きっとキミは新しい鬼になり果てる」


 桃太は、復讐のことを忘れたわけでは無い。それでも、音楽に合わせて体を動かしている間は、憎悪だけを想っていたわけではなかった。


「そして、これこそが〝鬼の力〟から身を守るコツだ。鬼という存在は、信念であれ、妄執であれ、大義名分であれ、唯一のカルマにのめりこむんだ。だからこそ自然と多様な文化、多様な価値観を認められなくなる」


 カムロは桃太の肩から手を離して、ほうと息を吐いた。


「鬼に憑かれた連中の中には、騙すために多様性を口にする者もいるが、そいつらの言う多様性とは、自身が認める極端に狭い範囲だけだ」

「勇者パーティ〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の団員達にもそういった傾向がありました」


 桃太の亡き親友、リッキーも言った通り……。

 革命という立派な大義名分を掲げても、逆らう者、自らの役に立たぬ者は皆殺し。そのやり口のどこが勇者なのか?


「〝鬼の力〟に囚われた者は、いずれ話も通じなくなるんだが……、ダンスに音楽、絵、小説。これらの文化は同じ人に伝えるために積み重ねられた力であり、邪気を祓うと伝えられた信仰の対象でもある。〝鬼の力〟の影響が少ない者なら、呪いを祓うことが出来るだろう」


 桃太は〝夜叉ヤクシニー〟との戦闘中、がいに引っ張られて暴走していた自分を、紗雨さあめの舞いが止めてくれたことを思い出した。


「つまり戦闘中にダンスをすればいい、んですか?」

「いや相手は鬼だし、戦意満々な相手の前で踊っても殺されるだけだ。一度は無力化しないと話にならん。その為の必殺技、〝生太刀いくたち草薙くさなぎ〟だ」

「わかりました。踊りも必殺技も、両方覚えて見せます!」


 桃太はより精力的にダンスに集中し、カムロも情熱的に三味線をかき鳴らす。


「うおおお、これが俺の、〝勇者パーティに猛省もうせいを促す舞踏ぶとう〟だ!」

「よーしノッてきた。本気の演奏を見せてやる」

「時間結界を強制解除。サメエアッパーカット! ジイチャンこそ反省が必要サメっ」

「うわらばっ」


 四日目の昼食前、川釣りに誘いに来た紗雨はぷりぷり怒りつつ、カムロを空の彼方まで吹っ飛ばしてしまった。


「さあ桃太おにーさん、一緒に泳ぎに行くサメ。この水着を穿いて、紗雨の背中に日焼け止めの薬を塗ってほしいサメ」

「ええっ、着ぐるみじゃないの?」


 紗雨が着ぐるみを脱いで、青いワンピース水着から伸びる、真っ白な肢体をあらわにすると、桃太は彼女の美しさに見惚れて、真っ赤になってしまった。


「桃太おにーさん、ひょっとして熱あるサメ?」

「か、カムロさんの特訓でのぼせちゃったのかも」

「ジ、ジイチャンは確かに厳しいサメ」


 厳しい特訓だけあって、成果はあったのだろう。

 桃太は紗雨と二人で川の魚を片端から手で掴み、おいという竹製の箱型リュックサックを満杯にした。


「サメエ、カッコいいサメエ。桃太おにーさんも、紗雨と一緒に宇宙一のサメを目指すサメ!」

「こらーっ。釣りなんだから、手でとっちゃダメでしょーっ」


 なお、猫娘のネネコちゃん達にルール違反だと怒られたのは言うまでもない。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、ついにダンスが出て来ましたね(*^▽^*) ダンスには呪詛を祓う力があると。 しかし復讐心を律しなければならないのは、面白い設定ですね。 主人公がやりたい放題するざまぁ系が多い中、復讐…
感想一覧
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