第255話 コピーとアドリブ
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「ひょっとしてセグンダさんは、他人の姿や能力をコピーできる術や、〝鬼神具〟の持ち主って事か?」
「ザッツライっ(そのとおり)。オレの推理、クールだろ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、金髪ストレートの長身少年、五馬乂が導き出した仮説に興奮し、互いに身を乗り出して右手をうちつけあった。
「さすが乂兄さんだ。コピー能力であれば、飛燕返しを再現することも可能かも知れない。ならば、どうやってコピーしているのか、そのきっかけを暴くことが攻略に繋がるはず!」
乂の弟である五馬碩志もまた、黒い癖毛を立てて喜ぶ。
「サメエ。なんとなくだけど、コピーとは違う気がするサメエ」
しかし、桃太の隣に座る銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、白いジンベエザメの着ぐるみのフード、ギザギザの歯がついた頭飾りをぶんぶんと横に振った。
「凛音ちゃんも説明したそうだけど、飛燕返しは、手、足、肩、腰の骨や筋肉、神経を、状況に応じて変化させることで、あんな無茶な剣の振り方を実現させるサメエ。――つまり、あの技に要求されるのは、一回のモノマネじゃなくて、アドリブの連続なんだサメエ」
「「「あ、そう、なのか」」」
紗雨の意外な角度からの指摘に、桃太、乂、碩志の三人は目と口を大きく開いた。
「そうですね。お姉さんも紗雨ちゃんに賛成です。パソコンや携帯端末を使って、文章や絵、音楽をコピーすることはできるでしょう。高価なブランド家具や鞄を見かけだけ再現することもできるでしょう。でも、〝コピー元と同じ水準で、別のものを作り続けろ〟となると、要求される技能は別次元です」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花も紗雨に賛同し……。
「そう言われると、なあ。そこまで苦労するなら、わざわざ瑠衣姉に化けなくても、ってなりそうだ」
「セグンダさんを二河家に影武者として送るならば、飛燕返しをコピーする意味も有りますが、彼女が今、偽当主を務めているのは六辻家ですからね」
セグンダの正体を巡る考察は、再び暗礁にのりあげた。
とはいえ、乂と碩志は納得しても、桃太にはあまり実感がなかった。
「紗雨ちゃん。飛燕返しって、そんなに難しい技なの?」
「むかーし、カムロのジイチャンにねだった時は、手が滑って危ないから、って見せてくれなかったくらいサメエ」
「……えっ?」
桃太は、師匠であるカムロさえ困難な技だったと知って、冷や汗をかいた。
(待てよ。そう言えばカムロさんは、自分自身のことを、大昔の英雄に似せた幽霊だって言っていた)
クマ国は、半世紀前に滅びの危機に瀕したとき、一千年前に鬼の首魁、八岐大蛇を倒した武神スサノオミコトを復活させようとしたらしい。
その時に蘇ったのがカムロで、本当は別人の幽霊だが、スサノオミコトを演じているのだ、というのが本人の弁だ。
今日交戦した、一〇〇〇年前のクマ国を知る妖刀ムラサマも、『カムロはスサノオのふりをしている大人』と発言している。
(セグンダさんが、瑠衣さんの技をコピーしたんじゃない。〝前進同盟〟が二河瑠衣さんをなんらかの手段でコピーした、〝二番目の瑠衣さん〟がセグンダさん、というのはどうだろう? カムロさんなら、詳しい事情を知っているだろうか?)
桃太は可能性をぐるぐる考えすぎて、頭が茹だっているのを自覚した。
「ちょっとトイレに行ってくる」
「相棒が行くのならオレも」
桃太と乂は連れ立って便所コーナーへ行ったのだが、その時、モヒカンの髪が目立つ級友の林魚旋斧とすれ違った。
「林魚のやつ、無言で行っちゃうなんて珍しいな」
「セグンダにボコボコにされたから、きっと落ち込んでいるんだぜ」
二人はこの時、林魚らしき人物に〝全く怪我をした様子がない〟という不自然さに気づかなかった。
「ふん、コピー能力ね。死体愛好家の七罪業夢が二河瑠衣の死体を実験でオモチャにした結果、〝再現された魂〟が取り憑いた〝生きた死体女〟如きに、そんな力があるものか。なぜなら、世界を統べるその力を持っているのは、このおれ、八闇越斗なのだから」
モヒカンの目立つ林魚旋斧の姿から、また別の研修生に顔を変えた謎の男は、そう呟くとクツクツと陰険に笑った。
あとがき
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