第253話 家族会議から戦略会議へ
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「怖いサメエ。嫁と小舅が争っているサメエ。こうやって家庭問題が深刻化するサメエ……」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、幼馴染である五馬乂を巡り、弟である五馬碩志と、パートナーの三縞凛音が丁々発止とやり合う姿にブルブルと震え、ジンベエザメのフードを目深にかぶり、出雲桃太にひしと抱きついた。
「大丈夫だよ、紗雨ちゃん。ちょっと戯れてるだけじゃないか、それにしても、乂と凛音さんっていつの間にか仲良くなっていたんだね」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、紗雨を抱き寄せて、ノコギリ歯が刺繍されたフード越しに、頭をさすりさすり撫でた。
(さっきからの口論をまとめると、碩志君は乂を地球に取り戻したい。乂と凛音さんは一緒に居たいから、クマ国に亡命したままでいたい。だから方針が相容れない、ってところかな)
桃太はそう分析して、知らず知らず胸を撫でおろした。
(良かった。乂が好意を抱いている異性は、紗雨ちゃんじゃなくて凛音さんの方だったのか。碩志君には悪いけどホッとしたなあ)
桃太が乂と三角関係にならなかったことに安堵する、そんな内心を知ってか知らずか――。
黒い癖毛の少年、五馬碩志と、三毛猫姿の三縞凛音はああだこうだと口論を続けている。
「凛音さんも、碩志さんも抑えてください」
さすがに黙ってはいられなかったのだろう。
「ニャ!?」
「はうあっ」
桜色の浴衣を着た女教師、矢上遥花が、彼女の〝鬼神具〟栗色の髪を結ぶ赤いリボンで二人をがんじがらめにして引き剥がし、仲裁に入った。
「凛音さん、交際相手の家族ともめてもいいことはありませんよ。碩志さん、私達をここに集めたのは、重要な話があるからでしょう?」
「ごめんなさい。言い過ぎたわ」
「ボクも熱くなっちゃってすみません」
凛音は、三毛猫の姿から和服姿の少女姿へと変身して頭を下げ、碩志もまた非礼を詫びて、手打ちにした。
「すみません、脱線していたので話を戻します。出雲さんには、いくつかお渡ししたい〝預かり物〟がありますが、まず最優先すべきは、安全の確保でしょう。石貫満勒ら、六辻家と〝SAINTS〟の刺客に襲われた以上、すでにキャンプは安全とは言えません。我々、五馬家と〝N・A・G・A〟が全力で支援しますが、今後、焔学園二年一組がどう動くのかをすり合わせたいのです」
「あ、ちゃんと会議もやるんだ」
「おいおい相棒、すでに家族会議をやっていただろう? なんてなっ」
「ガイ。真面目にするサメエ。今から始めるのは、サメを相手に銛や銃で戦うか、それともイカダを組み立てて逃げるかを決める、戦略会議ってやつサメエ」
「……サメ? サ、サメ映画であれば、だいたいそんな感じですね」
桃太、紗雨、遥花、乂、碩志、凛音。浴衣を着た六人は、姿勢を正して向き合った。
「そして、これからの方針を決める以上、先の戦いについても避けられないでしょう。最初の議題ですが、ボク達が交戦したセグンダを名乗る、六辻家当主の影武者への対策です」
あとがき
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