第252話 五馬家、家督の行方
252
「碩志、お前のおかげだ。最後に一緒に戦えて、いい思い出が出来たぜ。五馬家と〝N・A・G・A〟のことをよろしく頼む」
金髪の長身少年、五馬乂は、因縁の相手であるセグンダに勝利した今がチャンスとばかりに、家督問題を終わらせようとするが――。
「とんでもない! 父さんは生前、乂兄さんに当主の座を譲っていました。その乂兄さんが生きていたのだから、五馬家と〝N・A・G・A〟の代表はお返しします」
乂の弟である黒い癖毛の少年、五馬碩志は、兄ならばそう来ると思っていたとばかりに、即座に反論する。
「バサラ……〝転輪鬼ヴリトラの骨〟も、本来ならば父さんから兄さんが受け継ぐべき〝鬼神具〟です」
「シャシャシャ。オレは戸籍上、もう死んでいるんだから、碩志が当主になるのが道理だろう。鬼神具だって、オレにはこれがあるし」
碩志が、黒い浴衣の袖からバサラと呼ばれる独鈷杵を出して手渡そうとするも、乂は黄色い浴衣の膝元に、赤ちゃけた短剣を置いて断った。
「乂兄さん、その短剣は〝鬼神具〟というより、錆びたジャンク品にしか見えませんよ」
「そう馬鹿にしたものでもないさ。カムロのジジイ曰く、異世界クマ国の秘宝、初代スサノオが八岐大蛇をぶった切った剣のひとつらしいぜ? ほら、なんか光ってるし」
乂のいう通り、赤茶けた錆びた短剣は黄金の光をばちばちと放って自己主張していた。
バサラこと、転輪鬼ヴリトラの骨も、独鈷杵の握りから赤い光を発して応戦したが――。
「乂の短剣、金色の光が押してるね」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の目から見ても、短剣と独鈷杵の発光争いは一方的だった。
「これでも、インド神話に名高い邪竜ヴリトラに縁もつ、八大勇者パーティ秘伝の業物のはずなんですがね。バサラが〝頑固老人は困る〟と、愚痴っている気がします」
「オーケー、奇遇だな。こっちも〝一〇〇〇年経ってから出直せや若造〟と、威張っている気がするぜ。って、この短剣、いったい何歳だよ?」
結局、碩志はバサラの受け渡しを諦めたものの、それでもなお乂のことを諦め切れないのか、熱心に説得を続けた。
「碩志君、やめておきなさい。一度決まった家督継承をひっくり返すのは、お家騒動の元よ。歴史を振り返りみれば、源頼朝と義経の兄弟とか、足利尊氏と直義の兄弟とか、最初は仲が良かったのに命の取り合いにもつれこんだ例はいくらでもあるわ。乂のことを思うなら、彼を自由にしてあげて」
乂と碩志の幼馴染である三縞凛音は、兄弟が譲り合って争うのをが見ていられなかったのだろう。白い猫耳をピンと立てて、赤い猫目を大きく開いて口を挟んだ。
「凛音姉さん。これは五馬家の問題です。確かにボクは、今の二人を祝福したいとも思っています。しかし、家の問題は別だ。無関係な貴女が、乂兄さんをたぶらかすのはやめてくれませんか?」
「あら、祝福してくれるのでしょう? ワタシだって将来、乂の家族になるつもりなのよ」
凛音は煙をたてて猫の姿へ変身するや、日焼けした額に青筋を立て碩志を挑発するように、乂の膝上にのってニャアと鳴いた。あまりに堂々とした挑発に、碩志はこめかみに青筋を立てる。
「怖いサメエ。嫁と小舅が争っているサメエ。こうやって家庭問題が深刻化するサメエ……」
乂のもう一人の幼馴染、銀髪碧眼の少女、建速紗雨はジンベエザメのフードを目深にかぶり、桃太にひしと抱きついた。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)