第250話 ささやかな勝利の宴
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長かった西暦二〇X二年七月一二日の戦いは終わった。
焔学園二年一組の生徒たちは、隣接するキャンプの冒険者パーティ、〝Chefs〟に保護されており、セグンダが武装と衣服の破壊にのみ注力したからか、それとも迅速な治療が功を奏したのか、幸いにも全員が復帰可能な軽傷ですんだ。
「〝Chefs〟の皆様、ありがとうございました」
「とんでもない。こちらこそ、とんでもない鬼から守って貰えて助かった。さすがは新しい勇者、出雲桃太君だね。感服した」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、担任教師の矢上遥花ら行動可能なメンバーは、まず〝Chefs〟のテントを訪れて治療の礼をのべた。
「出雲さん。いえ、桃太さんとお呼びしても構いませんね。ようこそボクのテントへ。ささっ入ってください。着替えも用意していますから」
次に、勇者パーティ〝N・A・G・A〟代表の五馬碩志の元へ窮地を救って貰った礼と打ち合わせをするために訪れたのだが――。
「それでは僭越ながら、この五馬碩志が音頭をとらせていただきます。快勝と再会を祝って乾杯!」
日に焼けた肌の黒い癖毛の少年、碩志にあれよあれよとのせられて、浅葱色の浴衣を着て、ジュースの入った紙コップをぶつけていた。
目の前には、冒険者パーティ〝Chefs〟が用意してくれた洋菓子と、フライドポテトやホットドッグといった軽食が並んでいる。
「碩志君。俺たち、勝ったの、かな?」
「倒すには倒したが、石貫満勒も妖刀ムラサマも、瑠衣姉さん……っぽい、セグンダも逃がしちまったからなあ」
桃太の相棒である金髪ストレートの長身少年、五馬乂も黄色い浴衣に袖を通し、ジュースに口をつけてしまったものの、首を傾げている。
「ハハハ。出雲さんも、乂兄さんも謙遜が過ぎますよ」
黒い浴衣を着た碩志はそう告げると、豪快にホットドッグへかぶりついた後、紙ナプキンで丁寧に口を拭って、満面の笑みを浮かた。
「桃太君も乂も、胸を張っていいわよ。誰も死ななかったし、大切なものはすべて守り切ったんだから、ワタシ達の勝ちよ」
続いて、白い毛に包まれた獣耳と赤い猫目が愛らしい、白い花柄をあしらった浴衣に青い帯を巻いた少女、三縞凛音も勝利だと告げる。
「そういえば、凛音さん。猫の格好じゃないんだ?」
「ええ、桃太君。碩志君には、もう正体が露見しちゃったからね。でも、勇者パーティ〝N・A・G・A〟代表としては、いいのかしら? ここにいるのは、日本に災厄をもたらした大悪人、テロリスト団体〝C・H・O〟の頭目よ?」
桃太は思わず否定しようとしたが、碩志がその前に首を横に振った。
「〝C・H・O〟の犯罪については、鷹舟俊忠の独断や、黒山犬斗が偽造した命令書によるものだと、警察が突き止めています。ボクは、乂兄さんがいなくなってから、思い詰めてゆく貴女をどうにかしたくて、何もできなかった。だから、今、兄さんの隣にいる貴方が、昔の貴女に戻ってくれて、嬉しいです」
「碩志君、そう言ってくれるのね……」
日焼けした黒い癖毛の少年と、白い獣耳が生えた少女。幼馴染二人が抱擁を交わす。
「り、リアリー? これってこの前拾ったエロ本のNTR展開に似てないか?」
そんな微笑ましい光景を、もう一人の幼馴染である金髪ストレートの少年が、とんでもなく複雑な顔で見つめていた。
あとがき
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