第248話 六辻詠を狙った真意
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「コケッ。やりましたわ。偽物のわたくしを倒したのですね。ろ、六辻家当主の座を返してください」
「ファファファ、だーめ。詠ちゃんも善戦してバトンを繋いだといえ、私を倒したアンカーは、五馬兄弟と出雲君、それに猫のリンちゃんだからね。次こそは他人に頼らず、自分で取り戻しに来なさい」
バイザーのような面で顔を隠した、六辻家当主の影武者セグンダは、本物である赤いお団子髪の少女、六辻詠にそう告げて、白い太ももを踊らせるようにして立ち上がった。
彼女は折れた刀を弔うように手を合わせた後、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太らに向かって一礼し、森の奥へと去ってゆく。
「私の負けだ。本物の六辻詠の生命と、天狗君が持っていったクーデター資料の奪回は諦めるよ。今日は最高に楽しかった。またデートに付き合ってくれ」
「セグンダさん、待ってください。貴方を逃すわけにはいかない」
桃太は、激戦の疲労と負傷で棒のようになった手足に力をいれ、這うように進むも、ふと懐かしいバイク音と合成音声が聞こえてきた。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。状況開始!」
「前進同盟からの迎えが、もう到着したのか? それも、よりにもよって黒騎士か!?」
桃太は助っ人に来たの相手を知って、肝が冷えた。
先の〝S・E・I 〟のクーデターの折は、共闘した仲であるが――。本気で戦った際には、紗雨の援護もあって辛勝をおさめたものの、実力は伯仲している。
満身創痍の現状では、絶対に戦いたくない強敵の一人だ。
「悪いね。負ける可能性も考慮して、帰りはタクシーならぬバイクを予約していたのさ」
「コケっ? なんですか、それ。負けたのなら、観念してお縄につきないさい、ですわっ」
「ファファ。あいにくと〝前世から〟諦めが悪くてね」
赤い髪を二つの団子状にまとめた少女、六辻詠は自らの影武者セグンダにくってかかったものの、悪びれもなく言ってのけた。
「リンさん、まだ動けるか」
「ニャン(ええ、ここで彼女を捕まえましょう)」
桃太の相棒、五馬乂と、その弟、碩志は力を使い果たして動けそうになく、戦闘可能な人員は、桃太と三毛猫姿の三縞凛音だけだ。
防戦の構えをとる二人を牽制するように、黒騎士がバイク上から放った銃弾が、バン! という轟音を響かせて、泥だらけの戦場に大穴をあける。
「ニャー(相手が悪いわっ。しかも、もう一台いるわよ。バイクの腕は黒騎士と互角くらい?)」
「ははは、勘弁してくれ」
桃太はもはやセグンダを捕らえるどころではないと知り、逃がす前にこれだけは訊ねようと腹に力を入れて、声を張り上げた。
「セグンダさん、聞かせてくれ。貴方達は本当に、詠さんを殺す気だったのか?」
桃太は、セグンダが飛燕返しで焔学園二年一組の研修生達を打ちのめしながらも、武器と服を破壊することにとどめていたことが、ずっと気になっていた。
少なくとも彼女は、下着を切らないよう加減するくらいの常識はあったのだ。
ならば、詠を殺すという目的の裏側にも、明かせない事情があったのではないか?
「凛音さんも、啓介さんも一度は鬼に堕ちた。セグンダさんは、詠さんがそうならないよう死んだことにして、六辻家から解放するつもりだったんじゃないのか?」
あとがき
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