表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/787

第23話 奥義〝生太刀・草薙〟

23


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、牛頭の仮面を被った痩せぎすの幽霊カムロが、〝鬼の力から身を守るコツ〟と、彼が編み出した〝便利な必殺技〟を教えてくれると聞いて、男ゴコロをくすぐられ歓喜した。


「必殺技、それを覚えれば俺だって!」

「ああ。地球のゲームセンターにあるという、取手レバーをガチャガチャするやつ、ああいうの好きだろう?」

「やってみたいです」

「そうだろう、そうだろう。こっちに来てくれ」


 カムロが連れてきたのは、畑から少し離れた場所にある広大な休耕地だった。

 桃太の背よりも高い草や、タネが衣服にくっついて離れない草、触れると皮膚や肉が切れる草など、厄介な雑草が目白押しだ。


(地球とは違うんだろうけど、これは骨が折れそうだ。こんなに広いと、草刈りをして除草剤をまくか、重機を借りて根こそぎやらないと……)


 桃太が実家でやった農作業手伝いを思い出し、うへえと顔をしかめている間に、カムロは雑草の中へ踏み入った。


「カムロさん、危ないっ」


 迂闊うかつに巣へ踏み入ったからだろう。

 ムカデや蜂といった毒虫が何百匹もわらわらと集まって、カムロに向けて牙をいた。

 しかも、異世界であるクマ国の固有種か、体長が三〇センチメートルを超えて、人の顔より大きいではないか?


「TATATA!」

「BUBUBU!」


 身の毛もよだつ害虫の群れにたかられながらも、牛頭面をつけた幽霊は静かに深呼吸をしている。


「ふおおーっ。〝生太刀いくたち草薙くさなぎ〟!」


 カムロが拳で薙ぐように、その場で一回転するや、牛頭仮面の男を中心とする半径一〇〇メートル内の雑草が、根っこから抜かれて空中へ吹き飛んだ。


「な、なんだって!?」

「どうだ、驚いただろう。妻の尻にしかれつつ、見返そうと鍛えた成果さ。〝風と大地に宿る意志〟の力を借りて、雑草を一撃で薙ぎ払う、この奥義を習得すれば、草むしりは万全なんだ!」

「凄いです。凄いけどおおっ」


 兼業農家の父母が見れば、泣いて喜ぶ必殺技だろう。でもこれじゃない。と、桃太は草の消えた大地に膝をついた。

 ……そうして、真実を理解する。


(カムロさんに向かっていた、危なっかしいムカデと蜂が、全部動かなくなっている。これって、もしかして、本当に本物の必殺技じゃないか!)


 カムロが桃太に伝授しようとした〝生太刀・草薙〟は、自身を中心に、半径一〇〇メートルの雑草を抜き尽くす技だった。

 けれど、きっと、それだけではない――。


「カムロさん、ムカデや蜂はどうなったんですか?」

「悪いけど気絶して貰ったよ。僕の必殺技は、草むしりにとどまらず、虫対策まで万全なのさ」


 カムロは冗談めかして笑ったが、桃太は草が引き抜かれた休耕地に突っ伏して、真剣に観察を始めた。


(草の抜かれた跡を、小さなアリやミミズが景気よく走っている。石はゴロゴロ転がっているのに、草だけが器用に抜かれている)


 考察する桃太の瞳が、一瞬だけ青く輝いた。


(〝かんなぎの力〟ってこういうことか? 風と土が教えてくれる。今の技は衝撃を操るものだ。アリやミミズには当てず、危険なムカデと蜂だけを気絶させ……、石や土を貫通して、草だけを根から引っこ抜いた)


 つまり、〝生太刀いくたち草薙くさなぎ〟という技の本質は、強固な装甲を貫通し、敵味方を識別し、標的だけを薙ぎ払う広範囲技――ということになる。


「カムロさん、是非この必殺技を教えてください」

「いいとも、午前は実戦訓練だ。僕と一緒に農作業や家事をしよう。でも、午後は紗雨や乂と一緒に遊んでくれないか? 結界さえ張れば、時間だっていじれ……、いや、桃太君がこの村に馴染んでくれると嬉しい」

「はいっ。よろしくお願いします!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 草むしり?(;゜ロ゜) 必殺技が予想外過ぎて、戸惑いを隠せません笑 てっきりプロローグにあったダンス攻撃の基礎辺りを教えて貰えると思っていました。 「強い」ではなく「便利な」と言ってました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ