第23話 奥義〝生太刀・草薙〟
23
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、牛頭の仮面を被った痩せぎすの幽霊カムロが、〝鬼の力から身を守るコツ〟と、彼が編み出した〝便利な必殺技〟を教えてくれると聞いて、男ゴコロをくすぐられ歓喜した。
「必殺技、それを覚えれば俺だって!」
「ああ。地球のゲームセンターにあるという、取手をガチャガチャするやつ、ああいうの好きだろう?」
「やってみたいです」
「そうだろう、そうだろう。こっちに来てくれ」
カムロが連れてきたのは、畑から少し離れた場所にある広大な休耕地だった。
桃太の背よりも高い草や、タネが衣服にくっついて離れない草、触れると皮膚や肉が切れる草など、厄介な雑草が目白押しだ。
(地球とは違うんだろうけど、これは骨が折れそうだ。こんなに広いと、草刈りをして除草剤をまくか、重機を借りて根こそぎやらないと……)
桃太が実家でやった農作業手伝いを思い出し、うへえと顔をしかめている間に、カムロは雑草の中へ踏み入った。
「カムロさん、危ないっ」
迂闊に巣へ踏み入ったからだろう。
ムカデや蜂といった毒虫が何百匹もわらわらと集まって、カムロに向けて牙を剥いた。
しかも、異世界であるクマ国の固有種か、体長が三〇センチメートルを超えて、人の顔より大きいではないか?
「TATATA!」
「BUBUBU!」
身の毛もよだつ害虫の群れにたかられながらも、牛頭面をつけた幽霊は静かに深呼吸をしている。
「ふおおーっ。〝生太刀・草薙〟!」
カムロが拳で薙ぐように、その場で一回転するや、牛頭仮面の男を中心とする半径一〇〇メートル内の雑草が、根っこから抜かれて空中へ吹き飛んだ。
「な、なんだって!?」
「どうだ、驚いただろう。妻の尻にしかれつつ、見返そうと鍛えた成果さ。〝風と大地に宿る意志〟の力を借りて、雑草を一撃で薙ぎ払う、この奥義を習得すれば、草むしりは万全なんだ!」
「凄いです。凄いけどおおっ」
兼業農家の父母が見れば、泣いて喜ぶ必殺技だろう。でもこれじゃない。と、桃太は草の消えた大地に膝をついた。
……そうして、真実を理解する。
(カムロさんに向かっていた、危なっかしいムカデと蜂が、全部動かなくなっている。これって、もしかして、本当に本物の必殺技じゃないか!)
カムロが桃太に伝授しようとした〝生太刀・草薙〟は、自身を中心に、半径一〇〇メートルの雑草を抜き尽くす技だった。
けれど、きっと、それだけではない――。
「カムロさん、ムカデや蜂はどうなったんですか?」
「悪いけど気絶して貰ったよ。僕の必殺技は、草むしりにとどまらず、虫対策まで万全なのさ」
カムロは冗談めかして笑ったが、桃太は草が引き抜かれた休耕地に突っ伏して、真剣に観察を始めた。
(草の抜かれた跡を、小さなアリやミミズが景気よく走っている。石はゴロゴロ転がっているのに、草だけが器用に抜かれている)
考察する桃太の瞳が、一瞬だけ青く輝いた。
(〝巫の力〟ってこういうことか? 風と土が教えてくれる。今の技は衝撃を操るものだ。アリやミミズには当てず、危険なムカデと蜂だけを気絶させ……、石や土を貫通して、草だけを根から引っこ抜いた)
つまり、〝生太刀・草薙〟という技の本質は、強固な装甲を貫通し、敵味方を識別し、標的だけを薙ぎ払う広範囲技――ということになる。
「カムロさん、是非この必殺技を教えてください」
「いいとも、午前は実戦訓練だ。僕と一緒に農作業や家事をしよう。でも、午後は紗雨や乂と一緒に遊んでくれないか? 結界さえ張れば、時間だって弄れ……、いや、桃太君がこの村に馴染んでくれると嬉しい」
「はいっ。よろしくお願いします!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)