第245話 テスカトリポカのかがみ
245
「〝煙を吐く鏡〟よ、我に力を貸せ。エンジン全開!」
女剣鬼セグンダは腰に巻きつけた蒸気機関の圧力を更にあげるや、オルガンパイプに似た排気口から獣が吠えるような轟音を発し、エンジン内部から黒曜石の破片めいた部品が露出した。
セグンダは、敢えて暴走させたのだろうか? 黒い煙の形となった〝鬼の力〟が溢れ出し、バイザーめいた鬼面をかぶる持ち主をあっという間に覆い尽くす。
「テスカトリポカって何だ? ひょっとして自滅する気か?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は過去に戦った伏胤や黒山らの暴走を思い出し、どうにかセグンダを止めようと、背部の蒸気機関を狙って石礫を矢継ぎ早に投げつけた。
「ニャン、ニャニャ!?(テスカトリポカは、南米の神話に伝わる創造神の一柱よ。生贄を要求する獰猛な戦神で、悪魔や大蛇とされる場合もあるわ。きっと、その力で肉体を強化しているのよ)」
彼の肩にのる三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、義眼から炎のレーザーをセグンダの足元に向けて放ちつつ、警告した。
「猫ちゃんがいると、手品の種がバレて困る!」
セグンダはまるで困っていないような声音で笑い、翡翠色の金属紐がしめつけるメロンのように大きな胸と、シュッとくびれたお腹、V字の腰ガード守るむっちりとした臀部や白い太ももに、黒い煙をセクシャルな生地に変えて張り付かせた。
「露出が減った? むしろ見えなくなってよりエロくなった気がする!」
「ナーゴ!(装甲強化の代わりでしょう。桃太君、紗雨ちゃんに言いつけるわよ!)」
二人がわちゃわちゃと騒いでいる間にも、黒い煙はセグンダの長い刀まで達し、取り憑くように黒く染めた。
「奥義開帳・飛燕返し!」
そうしてセグンダが長剣を繰り出すや、桃太が投げた石礫も、凛音が発射した炎のレーザーも、煙に食われるようにして消し飛んだ。
「ええっ、なんて破壊力だっ。満勒さんやムラサマちゃんと組めば、あの〝神鳴鬼ケラウノス〟だって倒せたんじゃないか!?」
「ニャフン(剣で斬るというより、煙に空間ごと食べさせたわね。まるでインチキ)!」
桃太と凛音は、セグンダの戦闘能力が桁違いに跳ね上がったことに戦慄したが……。
「シャシャシャ。瑠衣姉さんとっておきの鬼術まで真似られるのかよ。さすがウルトラフェイク。そのストーカーみたいな執念だけは認めてやるぜ」
「乂兄さん。セグンダが契約した鬼神具は、どうやら本物の二河瑠衣様が持っていた、〝大熊座の鏡〟に似ているようだ。偽物と侮らないでください」
かつて八大勇者パーティ中、最強と呼ばれた二河瑠衣に等しい力をもつセグンダに対し、五馬の兄弟は恐れることなく挑んだ。
「変幻抜刀、陽光剣!」
びりびりに裂けた白い胴着服をまとう金髪少年、五馬乂は、右手に握る錆びた短剣から黄金の光を放ちつつ、上段から切り下ろし。
「夢想一閃、地すり繊月」
周囲の泥地や森の木々に溶け込む迷彩服を着た、黒い癖毛の少年、五馬碩志は、柄の上下に槍状の刃がついた金具、独鈷杵から赤い光刃を伸ばして下段から切り上げる。
「「見ておどろけ。これが、五馬兄弟の必殺技だ!」」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)