第242話 兄弟再会
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「ノー! アイムノットユアブラザー(わたしはあにじゃない)! アイキャントスピークジャパニーズ(にほんごをはなせまん)!!」
なんということだろう?
金髪の長身少年、五馬乂は、セグンダに蹴られて半壊した天狗面を必死でかぶり、弟である五馬碩志に対して別人のフリを決め込もうとしたではないか?
「乂兄さん。たった今蹴られたときに、日本語で〝うるせー、へぶぁ〟という悲鳴を聞いたばかりですが?」
「おい、乂。せっかく生き別れた弟さんに会えたのに、その態度はないだろう?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は大怪我を負ってニワトリに変身してしまった少女、六辻詠の傷口に治癒薬をふりかけながらも、見苦しい言い逃れに黙ってはいられず、思わず碩志に加勢――。
「しーっ、しーっ。黙っていればわからないって。ほら、碩志君。キミのブラザーはブラックな髪だったはず、ミーのヘアーは、ブロンド。チガウノワカルネー?」
「ニャー(乂、情けないわよ)」
乂の幼馴染である三毛猫に化けた少女、三縞凛音もまた、猫の目に似た義眼から発する〝癒しの炎〟で詠を治療しながら、ツッコミを入れた。
「おや、その炎は、〝鬼神具・ホルスの瞳〟由来のものですね。凛音姉さんも、亡くなったと聞いた時は衝撃でしたが、お元気そうで何よりです」
「ニャッ、ニャーニャー(ノー、ワガハイはネコです。ナマエはリンです)」
が、これまたどうしたことか。
碩志に正体を見抜かれるや、凛音まで誤魔化し始めた。
「乂も凛音さんも、こんな感動的なシーンで、息のあった漫才を披露しなくていいから」
「出雲さん、お恥ずかしながらこの二人は昔からこうでしたよ。一〇年前に戻ったような安心感でむしろほっとします」
桃太は、碩志が特に怒ることもなく受け入れるのを見て、これが兄弟の絆かと感嘆した。
「凛音姉さんが猫の姿になっているように、人類は異界迷宮カクリヨの影響で、動物にだって変身できるんです。乂兄さんの髪色が黒から金に変わったところで驚くことじゃない。それに、この鬼神具、バサラが喜んでいますからね」
黒い癖毛と日に焼けた顔が印象的な少年、五馬碩志は迷彩服に包まれた腕を突き出し、バサラと呼ぶ金色の独鈷杵を見せた。
槍状の刃が柄の上下から伸びた仏道の法具は、碩志の兄である、天狗面を被った金髪少年、五馬乂との再会を喜ぶように穏やかな光を発して、振動していた。
「もちろん、乂兄さんが生きていた以上、バサラもお返しします」
「いや返されても困る。ああ、わかったよ。オレが五馬乂だ。すまん。碩志には、恨まれていると思っていたんだ」
乂もとうとう正体を隠すことを諦めたらしく、天狗の面を胴着の懐に仕舞い込んで、碩志より少しだけ大人びた、寂しげな素顔を見せた。
「言いたいことは山ほどありますが、ボクが乂兄さんを恨むわけがないでしょう。家族が生きていたんだ、こんなに嬉しいことはない」
あとがき
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