第241話 五馬碩志見参!
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「そうか、風を使って匂いを消し、風を使って音を消し、風を使って空を舞う。〝葉隠〟をかくも使いこなせる男は一人しか知らない。キミが、五馬家当主、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の代表、五馬碩志か!?」
西暦二〇X二年七月一二日の日没時。
女剣鬼セグンダは、空を飛ぶための黒いコウモリの翼を、黒い癖毛と日に焼けた肌の目立つ少年の奇襲によって失い、泥と倒木でぐちゃぐちゃになった地面へと墜落した。
「奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
しかし、バイザーから二本の角が生えた鬼面をかぶる女剣鬼は、エメラルドグリーンの細いブラジャーのような金属製胸当てという肌もあらわな肩から左腕を突き出し、片手逆立ちでもするかのように受身をとる。
そのままくるりと回転し、腰に巻きつけた蒸気機関のベルトと、股間を守る際どいV字のガードから伸びる白く艶めいた足で着地を決めて、カウンターとばかりに右手で飛燕返しを放つ。
「夢想一閃、地すり繊月」
されど新たな戦場への参加者は、槍状の刃が柄の上下から伸びた仏道の法具、いわゆる独鈷杵を握っており、金具の先端からビームソードのような赤黒い光剣を形成して、下段から切り上げ、長く細い刀身を切り返して見せた。
「五馬碩志君なのかい? 助けに来てくれたのか?」
「はい、出雲桃太さん。ボク達のパーティ、〝N・A・G・A〟の斥候部隊が救援要請の狼煙を発見したので、急ぎやって来たのです。三縞家と〝C・H・O〟、四鳴家と〝S・E・I 〟。二度のクーデターを止めた新たな英雄とお会いできて光栄です」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、三毛猫に化けた少女、三縞凛音と共に傷ついた六辻詠の治療をしながら、救援にかけつけた五馬碩志と、視線を交わした。
(碩志君が着ている服は、深緑とカーキ色を組み合わせた迷彩服だ。セグンダさんは風がどうのと言っていたけど、森の色に溶け込んで視認できなくても、無理はない。乂より、ずっと忍者っぽいね)
一方の女剣鬼セグンダは、飛行というという絶対優位を喪失し、地に堕ちたことで少しは弱気になるかと思いきや――。
「どうやってここに来た? と尋ねたいところだが、途中まで蒸気バイクで移動して、隠れ身の術で接近したといったところか。碩志君の慎重さは、先代当主の五馬審殿を思い起こさせるね。天狗君も少しは見習いたまえよ」
「うるせー。へぶぁ」
翡翠色の金属紐でしめつけた胸をばるんばるんと弾ませながら、細く長い剣で飛燕返しを繰り出して――。
桃太の相棒である天狗面をかぶった金髪少年、五馬乂が切りつけた短剣をさばき、夕日に照らされた美しい足で天狗面を派手に蹴り飛ばしていた。
「桃太さんには、乂兄さんがお世話になっているようですね」
「碩志君。乂のこと、わかるのかい?」
「弟ですからね。昔からこういうところありましたし。乂兄さん、蹴られているところを何ですが、お元気そうで何よりだ。碩志です」
桃太は、何年かぶりだろう兄弟の再会に感動して、目頭が熱くなった。が――。
「ノー! アイムノットユアブラザー(わたしはあにじゃない)! アイキャントスピークジャパニーズ(にほんごをはなせまん)!!」
なんということだろう?
乂はセグンダに蹴られて半壊した天狗面を必死でかぶり、弟に対して別人のフリを決め込もうとしたではないか?
あとがき
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