第240話 勇気が手繰り寄せたもの
240
「我が剣は飛燕をも墜とす。さあ、包丁を入れようか。奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
「ひいいい、痛いですわあー」
女剣鬼セグンダが、黒いコウモリの翼で浮遊しながら放った飛燕返しによって……。
赤い髪を二つのお団子状にまとめた少女、六辻詠は、空を飛ぶ為に必要な白い翼と光輪を断ち切られた。
彼女は衣服の裂かれた下着姿となった後、手足から大量の血を吹き出して、ニワトリに変身して地に落ちた。
「相棒。セグンダの相手はオレが引き受けるから、詠さんをキャッチしてくれ。リンは彼女の治療を頼む」
「わかった」
「ニャー(まかせて)」
天狗面をかぶった金髪少年、五馬乂は足裏からジェット機のように風を吹きだしてジャンプ、錆びた短剣を手にセグンダへ突っ込んで囮となった。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は相棒が時間を稼いでいるうちに落下点へ移動、ニワトリとなった詠を両手で抱き止め――。
三毛猫に化けた三縞凛音が、前足から白く輝く癒しの炎を生み出して治療にかかる。
「コケっ。痛いよ、食べないでえ」
「食べないし、食べさせない。俺たちが守るよ」
「ニャンニャー(凄いわよ、あの反則めいた水着鬼を追い詰めたんだから)」
桃太と、凛音は、満身創痍の詠を励ますものの。
「よせよせ、甘やかすんじゃない。その臆病娘には、勇者の名は重いようだ。もう二度と戦場に出られないよう、ここで退場させるのが、彼女のためじゃあないかな?」
セグンダは黒いコウモリの翼をはためかせて空中浮遊しつつ、長く細い刀で乂と切り結びながら、酷薄に言い放った。
「詠さんは勇敢だ。勝手なことを言うなっ」
桃太は詠の名誉を守るべく、自らも乂と並んで戦闘に参加しようするも――。
「相棒、下手な煽りにひっかかるな。リンと一緒に治療を優先しろ。セグンダ。オレも六辻詠は立派な勇者だと尊敬するぜ。こいつは確かな勝機を手繰り寄せた!」
空中を飛び回る乂のアイコンタクトで足を止めた。彼の口元は、なぜか笑っていた――。
「そうです。六辻詠さんは、紛れもなく勇者だ。だってボクと兄さんを一〇年振りに引き合わせてくれたのだから!」
次の瞬間、耳慣れない声が聞こえ、天を舞うセグンダのコウモリめいた翼が、赤黒く光る刃によって断ち切られた。
「ファ? なんだと? この私が不意打ちを受けただって?」
女剣鬼セグンダは墜落しつつも、乂との交戦中に背後から奇襲してきた相手を視認した。
どうやら彼女が薙ぎ払った倒木の陰に、黒い癖毛をショートに切り揃え、よく日に焼けた肌の少年が潜んでいたらしい。髪質こそ違ったが、少年の横顔は乂とよく似ていた。
「そうか、風を使って匂いを消し、風を使って音を消し、風を使って空を舞う。〝葉隠〟をかくも使いこなせる男は一人しか知らない。キミが、五馬家当主、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の代表、五馬碩志か!?」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)