第239話 セグンダの隠し札
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「いやいやお見事。まさか、奥の手を切らされるなんてね。〝獣変化〟」
「「「!?」」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と天狗面を被った金髪少年、五馬乂が、三毛猫に化けた少女、三縞凛音の助けを得て、必殺技を命中させる直前。
妖艶なる剣鬼セグンダは、翡翠色の金属紐とV字の腰ガードという水着鎧の、ほぼ丸出しの背中から二枚の黒いコウモリの翼を生やして飛翔した。
女剣鬼が空へと逃れたことで、桃太が切りつけた衝撃刃は空振りし、凛音の未来予測は盛大にはずれ、乂が決めようとした大技も不発に終わってしまう。
「腰部の蒸気機関をギリギリ避けて翼を生やした? そうか、この為のビキニアーマーだったのか! いったいどんな〝鬼神具〟と契約しているんだ?」
「違うぜ相棒。セグンダの言動を見る限り、ビキニアーマーは趣味だし、〝鬼神具〟なら〝鬼の力〟を絡めた予備行動があるはずだ。あの前振りのない変化はきっと、二河家と勇者パーティ〝S・O 〟 に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝獣変化〟だぜ!」
「ニャ、ニャニー(飛燕返しを放つ時に、手や腰の筋肉と骨を変化させているのは気づいていたけれど、よりにもよって〝獣変化〟ですって? もう二河家で生きている人はいないのに、こんなの計算不能。反則でしょう!)」
必勝を期した作戦は失敗に終わり、三人は空へ追うこともできずに、地上に取り残されてしまう。
「桃太君も天狗君も猫ちゃんも、異界迷宮カクリヨの中では、地球の常識は通用しないことを肝に銘じたまえ」
セグンダは翡翠色の金属紐を巻いた大きな胸を弾ませ、V字の腰ガードから伸びる艶めかしい脚で空を蹴った。
「私も一度、酷い目にあったからね。これは本心からの忠告だよ」
女剣鬼は、二河家と勇者パーティ〝S・O 〟 に伝わる〝勇者の秘奥〟――〝獣変化〟で生やしたコウモリの翼を使い、赤い髪を二つのお団子状にまとめ、白い翼で空を飛ぶ少女、六辻詠を追う。
「コ、コケエエッ。なんで、なんで偽物なのに、空を飛べるんですかあっ」
詠は目からボロボロと涙をこぼしながら、必死で光刃を放つものの、高さの優位を失ったことで、セグンダの長剣によって容易く切り散らされた。
「コケッ、やだ、こないで、殺さないでええ」
詠は遂に心折れて、白い翼をはためかせながら逃げようとするも、セグンダにあっという間に追いつかれてしまう。
「敢えてこう呼ぼうか。本物の六辻詠さん、キミの持つ〝鬼神具〟は素晴らしい。ジズとは、ユダヤの伝説に登場する悪魔で、陸上に棲む最高の獣、ベヒモス。海中で泳ぐ最強の獣、リヴァイアサン。二匹と同格の空を飛ぶ大鳥とされる。私を追い込んだのも納得だ」
セグンダの手にする細く長い刀が踊る。
「だが、〝鬼神具〟が強いのなら、使い手であるキミを斬ればいいだけのこと。心意気は買うが、実戦経験が足りないね。知っているかい? ユダヤの伝承では、世界の終末の際、ジズはベヒモス、リヴァイアサンと共に三匹揃って夕食の皿にのせられるそうだよ」
「コケっ、食べないでぇ」
詠は白い翼と一二枚の光輪を使い、ジャージに包まれた大きな胸をはずませながら、必死で退路を模索した。しかし、残念ながら手遅れだ。
「我が剣は飛燕をも墜とす。さあ、包丁を入れようか。奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
「ひいいい、痛いですわあー」
詠は飛燕返しによって、背中の翼と全ての光輪を断ち切られ、衣服の裂かれた下着姿となり、手足から大量の血を吹き出しながら、ニワトリに変身して地に落ちた。
あとがき
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