第237話 飛燕返しを攻略せよ
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「心配ご無用っ。偽物さんに見せてあげます。これが六辻家に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝空中浮遊〟ですわっ」
赤い髪を二つのお団子状にまとめた少女、六辻詠は、白い翼をバサバサとはためかせ、一二枚の光輪を回転させながら、あたかもヘリコプターのように空中を飛びはじめた。
「す、凄い。さすが勇者だ。蒸気バイクのような乗り物が無くても飛べるのか」
「そういえば、六辻家は昔から、空飛ぶ鬼神具を集めていたってオヤジが言っていた気がするぜ」
「ニャ、ニャニャン(〝SAINTS〟の精鋭部隊は、エアボーン戦術を実施するって聞いたけど、勇者の秘奥の正体が空中浮遊なら納得ね)」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
天狗面をかぶった金髪ストレートの長身少年、五馬乂。その首元に巻きつく三毛猫に化けた少女、三縞凛音。
勇者パーティとも縁の深い三人が見守る中、詠はセグンダに向けて、ぴしゃりと指差した。
「私が本物の〝鬼勇者〟なんです。もう閉じ込められるのも、逃げるのも嫌っ。わたくしは貴方を倒して、自分が本物だと証明する。偽物は、わたくしの地位と名誉をお返しなさあい!」
詠の気性は臆病だが、影武者であるセグンダへの怒りが勝るのだろう。
彼女を取り巻く一二枚の光輪が、無数の光刃に分裂。雨のように標的へと降り注いだ。
「ファファファ。下手な鉄砲も数を撃てばあたるとでも? それは甘い見通しというものだ。飛んで火に入る夏の虫。臆病娘がネギを背負ってやってきたんだ。丁重に鍋料理にしてやろう」
セグンダは、すかさず飛燕返しで反射しようとするが……。
「コケエエッ。これが、炉谷道子から学んだ必殺技、〝光刃三千〟です。わたくしはぁっ、わたくしのぉ、居場所を取り戻すのですわああ!」
詠が操る光刃は、恐るべき高機動力を発揮。
あたかも流星が尾をつくり、納豆が糸を引くような軌跡を描きながら、細い刀による防衛圏を潜り抜けた。
「ほうっ!? 飛燕返しを抜けるかっ。衝撃でもなく、熱でもなく、光だからこその攻撃法だな!」
セグンダはそれでも九割の光刃を叩き落とし、翡翠色の金属紐に包まれた豊かな胸を弾ませながら身を翻し、残る一割すら回避してみせる。
「人間である以上、頭上からの攻撃には弱いはず。貴方だって例外じゃないはずですわー」
しかし、詠の狙いはセグンダだけに有らず! 彼女が背負うランドセル型の蒸気機関だった。
こちらはギリギリで避けきれずに、深い亀裂が刻まれる。
オルガンパイプ型の排気口からは血のような赤い煙が吹き出し、機関本体も異常を知らせようとビービーと悲鳴のようなビープ音を響かせた。
「「ええーっ」」
桃太達が驚きの声をあげたのも無理はない。
乂と凛音を含む含む焔学園二年一組一同が、何度セグンダに挑戦しても破れなかった鉄壁の守りを、詠は初めて破ったのだ。
「詠さん、凄い。あんな破り方があったなんて」
「リアリー? ひょっとして詠ってばリンより強いじゃないの!」
「にゃにーっ、ふしゃーっ」
桃太は素直に感心するも、乂は喜びのあまりデリカシーのない感想を告げて、三毛猫姿の凛音に顔を引っかかれた。
あとがき
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