第236話 本物の誇り
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
天狗面をつけた金髪の長身少年、五馬乂、三毛猫に化けた少女、三縞凛音と、ビキニアーマーを身につけた女剣鬼セグンダ。
互いに殺意を高めながらせめぎ合う濃密な時間は、森から突如として現れた意外な闖入者に破られることになる。
「コケーっ。出雲さん達はやらせません。なぜなら本物のわたくしがぁ、偽物である貴方を叩きのめすからですわ!」
二つのお団子でまとめた赤い頭髪の上に、天使を連想させる光輪を浮かべた丸っこい少女、六辻詠が後方の森から飛び出してきたからだ。
「詠さん、危ないよ。こっちへ来ちゃだめだ!」
桃太は、詠の登場に驚愕し、ニワトリ姿で逃げ惑っていた彼女の姿を思い出して、退避を勧めた。
「奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
されど、時既に遅く……。
セグンダの手から、彼女の身の丈よりも長い剣が、詠の恵まれた胸元へ蛇のように伸びる。
桃太は必死で手を伸ばすものの距離が遠く、到底間に合わない。
「六辻を守護する〝鬼神具〟、〝空王鬼ジズの羽根〟よ、力を貸して!」
首が落ちるか、服が破れるかの瀬戸際で……。
それでも臆病なる勇者、本物の六辻詠は、逃げようとはしなかった。
二つのお団子状にまとめた頭頂部に浮かぶ七色に輝く光輪を〝鬼面〟に変化させて、自らを奮い立たせるようにを被る。
「舞台登場 役名宣言――〝鬼勇者〟!」
詠が鬼面を被り、〝鬼勇者〟の役名を名乗ったことで、背中からは真っ白な翼が生え、ジャージに包まれた大きな胸とお尻を守るように、七色に輝く一二枚の光輪が出現。
セグンダの放つ飛燕返しを、ギンというかん高い音を立てて阻んだばかりか、地面から一メートルばかり離れた空中をふわふわと浮遊し始めた。
「退けませんわ。この惨状を見てください。みんな下着姿じゃないですか!?」
「いや、そんなにじろじろ見たら悪いし」
「相棒は、そういう気遣いするよなあ」
「ニャアア!(乂もちょっとは、遠慮なさい!)」
詠の指摘したように、焔学園二年一組のほぼ全員が、武器を壊されると同時に衣服を破かれて、肌の色も露わな格好で気絶していた。
詠だって〝鬼神具〟の支援がなければ、同様の結末を辿っただろう。
「コケっ。出雲さん達のような六辻家と無関係のひとまで、わたくしのために戦ってくれたのに、本物であるわたくしが、どうして怯えていられますか? だいたい風評被害もはなはだしいですわ。わたくしの名前でハレンチな真似をするなあ!」
「イヤダナー。殺していないんだから、許しておくれよ、チキンちゃん」
「じ、自分の偽物がセクハラ三昧って、確かに許せないかも」
桃太も共感するほどに、詠の決意は固かった。
「リアリー(まじかよ)? 〝空王鬼ジズの羽根〟は、六辻家が秘蔵する〝鬼神具〟だぜ。それを使えるってことは、やはりホンモノの六辻詠か。実際に見るのは、何年振りだよ!」
同じ八大勇者パーティのよしみから、過去に面識のあった五馬乂は、驚きのあまり乱れて天狗面からこぼれた金髪をかきあげ。
「ニャン、ニャナー(乂も一〇年行方不明だったでしょ。コケなんて口癖と、あの大きな胸のおもりは本物で間違いないわ。でも、意外に度胸あるのね)」
三毛猫に化けた三縞凛音もまた、彼女が知る六辻詠では想像できない大胆な行動に、猫目を丸くしていた。
「心配ご無用っ。偽物さんに見せてあげます。これが六辻家に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝空中浮遊〟ですわっ」
詠は白い翼をバサバサとはためかせ、一二枚の光輪を回転させながら浮遊するに留まらず、あたかもヘリコプターのように空中を飛びはじめた。
あとがき
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