第22話 強さへの渇望
22
「俺は、勇者パーティに、〝C・H・O〟に親友を殺されたんだ。あいつは俺を助けてくれたのに、俺はリッキーに何もできなかった。俺はそんな俺が許せないっ。だから戦う力が欲しいんだ!」
桃太が強く握り締めた拳を、カムロは悲しそうに見つめた。
「桃太君。キミの親友を殺したのは〝C・H・O〟だろう? 悪いのはキミじゃない。それともキミは、……復讐を望んでいるのか?」
「そう、です」
桃太の答えを聞くと、カムロは浅く息を吸った。
風が吹いて、あぜ道の草花を揺らした。
(復讐は何も生まないとか、そういう風に止められるかな?)
桃太は、カムロに否定されるのではないかと恐れたが――。
牛頭面を被ったクマ国のまとめ役は、額に十字傷を刻まれた少年へ諭すように告げた。
「桃太君、安心したまえ。キミの復讐はきっと果たされる。日本国には自衛隊がいるし、クマ国には僕達がいる。だいたい勇者パーティは、他に七つもあるんだろう。彼らが黙っているはずもなし、クーデターなんて成功するはずがない」
カムロの発言はきっと正しい。
桃太が無理に関わらなくとも、大人達が適切に処理してくれるのだろう。
「違うんだっ、そうじゃないんです」
桃太は、自らの胸を灼く感情を、どう表現すればいいのかわからなかった。
(乂は俺を切り札だとか、カムロさんにまるめこまれるなとか言っていたけれど、違うよ)
桃太は、風や草花の音を聞くことで、牛頭の仮面に隠れたカムロの沈んだ表情を、不可思議にも把握できた。
(この人は、俺を戦わせたくないんだ。彼が大人で、俺がまだ子供だから)
カムロは、里の子供である紗雨と乂だけに留まらず、桃太にも保護者であるかのように振る舞っている。
感謝はあったが、それでも自身の手で何かをしたかった。
「カムロさん。俺に戦い方を教えてくれませんか?」
桃太の申し出に、カムロは牛頭の仮面を抱えて黙りこんでしまった。
「わかった。せっかく客人が来てくれたんだ。お土産代わりに手ほどきしよう」
「じゃあ、〝鬼の力〟の使い方を教えてください」
桃太が喜び勇んで申し出ると、カムロは強く首を横に振った。
「違う、そうじゃない。〝鬼の力〟がないキミだからこそ持つ、特別な才能があるはずだ」
カムロに断言されて、あたかも神託でも得たように、桃太の心臓が強く高鳴った。
「カムロさん。それは、三縞代表や、鷹舟副代表が言っていた、〝巫の力〟でしょうか。でも、何のことだかわからないんです」
「生前に妻が言っていたが、『天然自然の声を聞いて、力を貸してもらう』らしいぞ。キミの場合は、自分や身近なひとの力を引き出す、〝縁の力〟というべき異能みたいだね」
桃太はカムロを通して、ようやく自分の力が何なのか把握することができた。
〝鬼の力〟に頼らない身体能力の向上や、乂や紗雨と共に〝忍者〟や〝行者〟への変身を遂げたのは、きっと〝巫の力〟によるものだろう。
「まるで仙人みたいだ。ということは断食したり、滝に打たれて修行したりすれば、強くなれるんでしょうか?」
「どうだろうなあ。僕も過去に〝巫の力〟を授かった者を何人か見てきたけど、フツーに欲深い奴やとんでもない悪党もいたからな。正直なところ、どうやって鍛えるのか想像もつかない」
残念なことに、カムロの話もいまいち要領を得なかった。が。
「そこで僕が編み出した、ちょっと便利な必殺技と〝鬼の力から身を守るコツ〟を教えてあげよう」
桃太はカムロが口にした、必殺技という男ゴコロをくすぐる単語に、飛び上がって喜んだ。
「必殺技、それを覚えれば俺だって!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)