第235話 意外な助っ人
235
「相棒、凛音。ちょっと耳を貸せ。オレのオヤジ、五馬審は、セグンダと同じ飛燕返しを使う瑠衣姉さんにも、公式試合で勝った経験がある。オヤジの得意技だった、〝二天一竜・天地鬼斬〟なら、あの偽物を倒せるかも知れない」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、天狗面を被った相棒の金髪少年、五馬乂の積極的な提案を聞いて、しぼんでいたやる気がふつふつと湧いてきた。
「乂、自信がありそうじゃないか。〝二天一竜・天地鬼斬〟って、どんな技なんだ?」
「おう、オヤジは二刀流の剣客だったからな。左右に加えて、両手で合計三発の大技を叩き込むんだよ。オレじゃ二発までが限界だと思うから、トドメの一撃を頼むぜ」
「任せてくれ。草薙の代わりに、〝鎧徹し〟を決める。凛音……リンちゃん、案内を頼める?」
「ニャン(わかったわ。サポートは任せてね)」
三毛猫に化けた少女、三縞凛音も了承し、三人は景気づけとばかりに肩を組んで、手のひらと肉球をぶつけあった。
「乂の弟、碩志君へのお土産にはおにぎりと、詠さんを騙る偽物の身柄を用意しよう」
「ジャスタモーメント(まってくれ)! 相棒、おにぎりはいらないぞ。碩志の奴、昔は胃腸が弱くて、家族のメシしか食えなかったんだっ」
「にゃー(そうなの、ほら雑談はここまで)」
消極的に逃げ回るばかりだった二人と一匹が積極的に飛び出すのを見て、二本のツノが生えたサンバイザーめいた鬼面をかぶる女剣鬼セグンダは、ニヤリとほくそ笑んだ。
「ほう、なにやら策があるようだが、私の技を破れるかな?」
「ああ、やってみせるさ。乂、打ち合わせ通りに行くぞ」
桃太が飛び出すや、セグンダは細い金属紐でしめつけた胸元を鞠のように揺らし、V字の腰ガードから伸びる白く輝かんばかりの足で大きく踏み込んだ。
女剣鬼の振るう身の丈よりも長い得物は、直角、半円、ジグザグといったはちゃめちゃな軌跡を描きながら、突出した桃太を狙い打つ。
「ともかく近づかないと話にならない。我流・手裏剣!」
桃太は拾った石礫に衝撃波をこめて、空を切り裂く長剣にぶつけて牽制するも……。
吹き飛ばした次の瞬間には、刀が地中から跳ねるように飛んできて、掌中に残る石を破壊された。
「ニャー(乂、交代)!」
「三人寄ればなんとやらってなっ」
凛音は〝鬼神具〟である義眼、〝ホルスの瞳〟を赤く輝かせながら、未来を予測。
乂がその情報を共有して、錆びて赤茶けた短剣で続く〝飛燕返し〟を防御。
その隙に桃太が再び前に出る、と、二人と一匹は幾度も前衛と後衛を入れ替わりながら、少しずつ距離を詰めていった。
「ファファファ。牛歩戦術のような真似をしているが、ひょっとして伊吹賈南が言っていた、五馬家と〝N・A・G・A〟の援軍が来るまで時間稼ぎをするつもりかい?」
「シャシャ、だとしたらどうなんだよ?」
自分の手でぶちのめしたい乂としては、セグンダが誤解してくれた方が都合が良いのだろう。
「不肖の弟子である満勒と、ヘンテコ妖刀のムラサマが離脱した今、私もアフターファイブに洒落込みたいのさ。武器を捨てて両手をあげ、六辻詠の首をさしだしたまえ」
「断る。貴方に詠さんは殺させない!」
「ニャン(滅多に人前に出ないけど、勇者パーティ当主の中じゃ、珍しく良い子なのよ)」
桃太、乂、凛音と、セグンダ。互いに殺意を高めながらせめぎ合う濃密な時間は、森から突如として現れた意外な闖入者に破られることになる。
「コケーっ。出雲さん達はやらせません。なぜなら本物のわたくしがぁ、偽物である貴方を叩きのめすからですわ!」
二つのお団子でまとめた赤い頭髪の上に、天使を連想させる光輪を浮かべた丸っこい少女、六辻詠が後方の森から飛び出してきたからだ。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)