第232話 未だ熟さず
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「ファファファ。敵対する相手に恋心を抱く。これも青春だね。拾った時にはやさぐれた子供だったのに、いつの間にか大きくなって、鍛えた甲斐があったよ」
西暦二〇X二年七月一二日夕刻。
水着鎧を着た妖艶なる女剣鬼セグンダは、仮面の下からのぞく口元を緩めて、弟子たる石貫満勒の頓珍漢な告白と、その失敗を優しく見守っていた。
「祖平さんと柳さんには、悪いことしたなあ。今度美味しいものをおごらないと……」
一方で、満勒に一方的な想いを寄せられた祖平遠亜と、その親友、柳心紺のクラスメイトである――額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、満勒の相手を彼女達に任せてしまったことを後悔し、なんらかの形で埋め合わせようと決めた。ところが。
「ストップだ、相棒。間違っても手料理をご馳走しちゃ駄目だぞ!」
共にセグンダの刀に追いたてられる金髪ストレートの少年、五馬乂は、桃太の言葉を聞き捨てならないと判断したらしい。
「奥義開帳、〝飛燕返し〟」
「リン、未来予測を頼む。相棒が一人で作る手料理は、この〝飛燕返し(つばめがえし)〟と同じくらい殺傷力が高いんだから、サメ子に監督してもらうか、無難に外食にしろよ」
乂は、首元へマフラーのように抱きつく三毛猫に化けた三縞凛音の力を借りて、セグンダが繰り出す細く長い刀を赤茶けた短刀で受け流しながら、桃太が余計な真似をしないよう釘を刺す。
「そ、そこまで言うことないんじゃないかなあ。ほら、ちょうどさっき握ったおにぎりを弁当箱へ入れてあるんだ。さっきは断られたけど、ちゃんと試食してくれたら、乂も誤解だってわかってくれるよ」
桃太は誤解を解こうとしたものの、乂はさっと青ざめて一歩後方に退いた。
「にゃあ、ニャニャニャン。(ワタシの瞳の未来予測でも、桃太君の手料理の結果は大凶と出ているわ。もしそのおにぎりを食べたら、乂は目を回すし、あの仮面ビキニアーマー女だって倒せるわよ。……食べてもらえる未来がないけど)」
おまけに凛音までが、尻尾をぶんぶん振り回しながら鳴いて念を押す始末だ。
「セグンダさん、俺の握ったおにぎり、食べます?」
桃太はここは一つ誘ってみるかと、セグンダにプラスチック製弁当箱に入れたおにぎりを差し出したものの――。
「ファファファ。出雲桃太君、私も新しい勇者殿の料理に興味はあるけど、〝前進同盟〟のオウモさんと黒騎士君から、絶対に食べるなと厳命されているんだ」
変幻自在の軌跡を描く剣技、〝飛燕返し〟を繰り出す女剣鬼セグンダまでが、V字の腰ガードから伸びる白く目映い足を止めて後ずさった。
「ひどっ。せめて一口食べてから言ってほしいなあ」
桃太は、十字傷に手を当てて涙したものの。
「シンクアゲイン(考えなおせ)。相棒は先の戦いで行動を共にしていただろう? オウモや黒騎士も実際に食べたからこそ、忠告したんだろうぜ。無理強いは、ノーグッド!」
「ナー!(同感よ……)」
「み、味方が欲しい……」
残念ながら賛同する者はいなかった。
あとがき
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