第231話 満勒の恋
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「ヒャッハァ。破壊とは、中途半端ではいけない。不死鳥が火から再誕するように、古い時代の異物はすべて葬らねばならん。俺様は必ずや成し遂げて、この国をすべる新たな覇者となろう」
八大勇者パーティのひとつ〝SAINTS〟を支配する六辻家からの刺客である、鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒は自信満々で言い放つが――。
「そう? 貴方が覇者を目指すのは勝手だけれど、私は壊すだけの男に魅力なんて感じない。そんなことの為にクーデターを目論み、六辻詠さんを殺そうとするのね。命の重みがわからない男なんて大嫌い」
「遠亜っちの言うとおりだよ。八大勇者パーティにも言いたいことは山ほどあるけれど、ガラガラポンと壊せば良いものが都合良く残るだなんて、あるわけないし、現になっていないっ。そんなふざけた理由で大勢の人を殺そうとするなんて、ただの悪鬼だ」
――瓶底メガネが外れた美少女、祖平遠亜と、彼女の親友であるサイドポニーご目立つ少女、柳心紺の視線は冷え込むばかりだった。
それは二度のクーデターに巻き込まれ、家族や親友の命すらも失う寸前だった遠亜と心紺がずっと燃やし続けてきた怒りだった。
「ヒャッハァっ。そうか、わかったぞ、柳心紺。お前は俺様にとっての恋敵だったんだな!」
「「はあ?」」
満勒は、そんな二人の仲睦まじい様子にあてられたか、まったく見当違いの結論に辿り着いたらしい。
「祖平遠亜。我が最愛の乙女よ、どうか誤解しないでくれ。俺様、石貫満勒はただ破壊したいわけでない。戦いを通じて、人の魂の輝きが本当に尊いものだと、その熱さを感じたいのだ。時代を変える覇者となるためにも、クーデターを起こし、お前達としのぎを削りたい」
遠亜も心紺も、『コイツは話が通じない』と悟り、どんよりした目で睨みつけた。
「そして、我が恋のライバル、柳よ。今は退くが、俺様は必ず祖平の心を射止め〝私が先に好きだったのに〟という、降伏宣言を引き出してみせよう!」
「「ひとの友情をそういう風に邪推するな!」」
満勒が付け加えた、ジョークの混じった決め台詞は、二人の堪忍袋の緒を引きちぎるに十分だった。
「……もうホバーベースへ帰りたいでち。使い手が百合の間に挟まろうとする横恋慕男とか、勘弁して欲しいでち」
ついでに満勒が握っている意思持つ大剣ムラサマも、「脈があってたまるか」とさじを投げた。
「ヒャッハァ、基地へ帰るか。それもいい。祖平を口説く為にも、今回は出直そう」
「ここから逃がすと思う? デューン展開! 戦闘機能選択、モード〝盾爪〟!」
「貴方はここで私と心紺ちゃんが倒す。咲け、胡蝶蘭!」
心紺と遠亜は最後まで捕まえようと奮戦したものの――。
「もしもの為にと蓄えていた〝鬼の力〟……。最後の保険を切るでち。満勒、このような敗北は、二度と許さないでち!」
「わかった。奥義開帳・魔竜咆哮!」
「まずっ。みんな、ごめん……」
「次は必ず勝ってみせるっ……」
満勒とムラサマの必殺技を阻む力は、二人にはもはや残っておらず、撤退を許してしまう。
「さあ、ムラサマ。赤く輝く太陽、日の出のような恋と未来に向かって出発だ」
「あれは夕日でち。未来はともかく、恋は諦めた方がいいでちっ」
満勒は日の光が翳りゆく水平線を目指し、意気揚々と森の中へ姿を消したが、ムラサマがツッコミを入れたとおり、彼の恋路はじきに来る夜のようにお先真っ暗だろう。
「ファファファ。敵対する相手に恋心を抱く。これも青春だね!」
されど、水着鎧を着た妖艶なる女剣鬼、セグンダは仮面の下からのぞく口元を緩めて、優しく見守っていた。
あとがき
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