第230話 メガネ落ちる
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「このまま倒す!」
「紗雨ちゃんが言っていたでしょう? 出雲君だけを敵と見たのが、貴方の敗因だよ」
「ば、馬鹿な、この俺様が、〝覇者〟にもなれないまま、朽ち果てるというのか!?」
サイドポニーの目立つ、濃紺の鎧を身につけた少女、柳心紺と、彼女の使役する〝式鬼〟八本足の虎ブンオー、瓶底メガネをかけて白衣を着た少女、祖平遠亜は、異界迷宮カクリヨのキャンプ地を襲撃してきた刺客、石貫満勒の目をトリモチアミで塞ぎ、戦闘不能に追い込もうとしていた。
「出雲達が消耗させてくれたからね。悪いけど、ここで決める」
「大人しく降伏なさい」
「さすがは現代の勇者の仲間。一筋縄ではいかないみたいでち。満勒、あたちがお前の肉体を使うから、落とさないようしっかり支えるでち」
心紺と遠亜は降伏を勧告するも、妖刀ムラサマは使い手である、鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、満勒の肉体を操って迎撃。
鉄塊の如き刀身から熱した鉄線を放って、満勒の視界を塞ぐトリモチアミを焼き切り、迫り来る一〇本の砂剣をも次々に砕いた。
「強ければ強いほど、倒しがいがあるというもの。この時代に目覚めて良かった。あたちは、最強の魔剣になるでち」
「遠亜っち、ヤバいのは満勒だけじゃなかった。鉄塊みたいな武器もだ!」
「多分、実戦経験が私たちより多い。あと少しなのに、押し切れない」
遠亜が振るう衝撃波をまとう杖と、ムラサマが激突し、爆風が吹き荒れる。
その衝撃で、満勒の目に貼り付いていたトリモチが完全に外れ、視界を取り戻した満勒が真っ先に目撃したものは……。
「う、美しい」
同じように激突の余波でメガネが落ちて、黒真珠のように輝く瞳と、細い鼻筋、艶めく小さな唇が顕になった、遠亜の華やかな美貌だった。
「祖平と言ったな! お、俺様の彼女になってくれ!!」
満勒は思わず大剣ムラサマを大地に突き刺し、片膝をついて、胸に湧き上がった衝動の赴くままに告白した。
「え、イヤよ」
直後、遠亜が拒否したのは言うまでもない。
「あ、アンタ何考えてるの? 遠亜っちに、イヤらしい目を向けないで!」
「BUNOO!!」
満勒の場をわきまえない告白は、遠亜ばかりでなく、彼女の親友である心紺と、二人が乗る八本足の虎ブンオーを激怒させ……。
「うわあ、最悪でち」
更には味方であるはずの大剣に宿る意思、ムラサマにまでドン引かれていた。
「ま、ままま、待て。祖平よ、俺様のことを知らないはずだ。何も即答することはないだろう?」
「石貫満勒さん。戦いでわかることもある。貴方は、半年前の私たちのように、ただ強い力を得てはしゃいでいるだけのビギナー。それに、出雲君と口論していた貴方の声を聞いたわ」
遠亜と心紺は、満勒がキャンプの入り口を破壊したことから、戦場に辿り着くまで迂回を余儀なくされたが、その間もきちんと襲撃者の情報を集めていたのだ。
「何もかもを壊す覇者になりたい、だって?」
遠亜の黒い真珠のような瞳が、深い憂いの影を宿す。
「一〇年前、弘農楊駿と勇者党が日本の政治をめちゃくちゃにして、今度は四鳴啓介が経済をぐちゃぐちゃにした。貴方は、この惨状でまだそんなことを言っているの?」
「ヒャッハァ。破壊とは、中途半端ではいけない。不死鳥が火から再誕するように、古い時代の異物はすべて葬らねばならん。俺様は必ずや成し遂げて、この国をすべる新たな覇者となろう」
あとがき
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