第228話 心紺と遠亜の参戦
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水着鎧を着た女剣鬼セグンダが、直角、水平、円、ジグザグと三六〇度、縦横無尽に振るう刀に攻撃を反射されて、近接戦闘をしかけた林魚隊にとどまらず、遠距離射撃戦を挑んだ関中隊、羅生隊までが戦闘不能に陥っていまう。
「近づいたら斬られる。遠くからだと跳ね返される。こんな露出狂とどう戦えばいいんだ……? そうかっ、最初から脱いでおけば脱がされない!」
「オーマイガッ。相棒、正気に戻れ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、衝撃のあまり錯乱したものの、天狗のコスプレをした金髪少年、五馬乂に蹴飛ばされて正気を取り戻した。
「すまない、乂。迷惑をかけた」
「ノープロブレム。相棒が、奇行に走りたくなる気持ちもわかるぜ。瑠衣姉さんがこの技、〝飛燕返し〟を使えたからこそ、二河家が仕切る勇者パーティ、〝S・O〟は畏怖されていたんだぜっ」
「にゃにゃん(ワタシの目で確認したけれど、かつての瑠衣姉さんも、今のセグンダって人も、手、足、腰の骨や筋肉、神経の構成を鬼術で〝変態〟させて、あの無茶な軌道を実現しているの。そんな高難易度な技だからこそ、〝飛燕返し〟につけられたあだ名が変態技なのよ)」
乂に抱かれた、三毛猫に変身した少女、三縞凛音が補足する。
「なるほど。そりゃあ、そんなあだ名もつけたくなるっ」
桃太と乂は反撃できないまでも、セグンダの放つ飛燕返しを回避し、あるいは防御できるだけマシだった。
「いくら蒸気鎧の支援があるからって」
「あの長い刀をああも振り回すなんて、どんなパワーとスタミナだ」
焔学園二年一組の研修生達は、セグンダの猛攻に耐えきれず、武器と衣服を破壊された上で、次々に地面へ叩き伏せられてしまう。
凛音がセグンダの登場前に、〝鬼神具・ホルスの瞳〟で視たという、焔学園二年一組全滅の予言は、いままさに的中しようとしていた。
「ヒャッハァっ! 包囲が崩れたじゃないか!」
「待ちに待った、だっしゅつのチャンスでち」
この状況の変化が、桃太と乂に追い詰められていた巨漢青年、石貫満勒と、日本人形めいた付喪神の化身、ムラサマに脱出のチャンスを与えた。
「ムラサマ、力を貸せ。つっきるぞ」
「わかったでち。満勒、もう一度刀に戻るでちよ」
満勒は、焔学園二年一組の研修生達が総崩れとなった瞬間、鉄塊のごとき大剣に変化した妖刀ムラサマを掴み、猛威を振るうセグンダとは反対の方角へ阿修羅めいた形相で駆けだした。
「遠亜っち、あのデカい剣を持ったデカい男を止めるよ」
「うん、心紺ちゃん。援護は任せて」
されど、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、分厚い瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜はいまだ健在。
「舞台登場 役名宣言――〝砂丘騎士〟!」
心紺は、着込んだ蒸気鎧を起動し、オルガンパイプ型排気口から赤い煙を吐き出しながら満勒の前へ立ちはだかって、堂々と名乗りをあげた。
彼女が身につけたパワードスーツは、セグンダが身につけたビキニアーマーと原理的には同じだが、濃紺に塗られた戦闘服の上に厚い装甲をつけ、同色のマントを羽織っているため、露出という面ではずっと控えめだ。
「BUNOOO!」
更には、心紺を乗せた彼女の〝式鬼〟――。
琥珀色の体毛の上に鎖帷子を身につけ、色鮮やかな紺布のドレスで飾った八足虎のブンオーは、声高らかに吼えながら超スピードで撹乱。
「咲け、胡蝶蘭!」
更に心紺の背後に同乗する、分厚い瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜が白いスーツケースを取り出すや、蘭の花が彫られた蓋があたかも花のように開き、カヤクバコノミを加工した地雷をタネでも飛ばすように、満勒とムラサマの進行方向に敷き詰める。
「ぬるいわ! 覇者の道を邪魔するなあ!!」
あとがき
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