第227話 焔学園二年一組 対 女剣鬼
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水着鎧を着た妖艶なる女剣鬼、セグンダが振るう剣先の折れた刀は、燕が宙返りするようなデタラメな軌跡で動き――、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太はまったく想定外の死角から飛んできた一撃に右手を斬られて、まとっていた衝撃波の刃を消し飛ばされてしまった。
「ど、どうなってるんだ。方向は、うわあああっ」
幸いにも巻き付けた衝撃波が直撃を逸らしてくれたものの、間髪入れずに次の斬撃が飛んでくる。
(ズズズって、水が流れるような地面の音がする。次はこっちか!?)
桃太は刃が大地を掘り進める音を知覚したことで、次の一撃が足元からだと予測。後方へバク転するように空中に飛んで避けたが、おおいに肝を冷やした。
「あ、足をかすめたぞっ」
「相棒、無闇に近づくな。瑠衣姉さんが飛燕返しを使っていた時は、あの人の師匠だったオレの親父以外に誰も止められなかったんだ。この技の剣筋は、オレにも読めないっ」
「ニャニャニャンっ(でも、瑠衣姉さんは一〇年前に死んでいるわ。どうして六辻家の影武者が使えるのよ。未来予測が的中しても防御が精一杯って、おかしいでしょ?)」
未来予測可能な三毛猫に化けた少女、三縞凛音を抱いた相棒、赤い瞳を持つ大柄な金髪少年、五馬乂はあられもない格好で気絶したクラスメイトを守ろうと、錆びた短刀を手に死に物狂いで受け止めていた。
「ファファファファ、どうしたどうした。もう少し楽しませておくれよ」
そんな三人を尻目に、セグンダが笑いながら振り回す二メートルを越える細く長い刀は、燕がエサを求めて方向転換するような変幻自在の動きで、周囲一帯を切り刻んでゆく。
「賈南さんは日緋色金で造られたって言っていたけど、実体のある刀だろう? あれじゃあ物理法則を無視しているみたいじゃないか!」
たとえば銃の一斉掃射や、〝鬼の力〟による爆撃ならば、桃太も納得できただろう。
されど、角の生えた仮面をかぶり、白く長い手足が魅惑的な〝女剣鬼〟が振るう武器は、身の丈ほどもあるといえ、ただの片刃剣なのだ。
剣術とは、適切に握り、適切に力を入れて、適切に斬る為に磨かれてきた。
その観点から見れば、セグンダが振るう刃はあまりに異様で、森の木々が割り箸でも折るように、バタバタと倒れてゆく光景は受け入れがたかった。
「出雲。この林魚旋斧が助けに来たぞっ、ぐはあっ」
そればかりか、大斧を手にしたリーゼント頭の〝戦士〟、林魚旋斧を中心とする白兵戦部隊が近づくと同時に、武器と防具を壊され、ついでに服も斬られてボクサーパンツ一枚になって失神――。
「一瞬でやられた? 近づいちゃダメだ。襲撃者のリーチはおよそ二メートル。外から射れば倒せる」
「関中隊に負けるな。羅生隊も、遠距離から術で狙う」
関中利雄が指揮する遊撃部隊が矢を浴びせかけ、羅生正之が中心となった鬼術師隊が氷矢や土弾を放つも――。
「それは悪手だぞ、ボーイズアンドガールズ!」
「……ウソだろっ」
「なんだと!?」
「「ぐわあああっ!?」」」
女剣鬼セグンダが、直角、水平、円、ジグザグと三六〇度、縦横無尽に振るう刀に矢や鬼術の弾丸を反射された上に追撃を受け、トランクスやブリーフもあらわな半裸姿でバタバタと倒れてしまう。
「リンちゃんの予言が当たる? 近づいたら斬られる。遠くからだと跳ね返される。こんな露出狂とどう戦えばいいんだ……?」
あとがき
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