第224話 六辻家当主の影武者セグンダ
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西暦二〇X二年七月一二日の夕刻。
水着鎧をつけた妖艶な女性、セグンダが自身こそ、日本政府へのクーデターをたくらむ、六辻家と〝SAINTS〟が用意した影武者であると、身分を明かすや――。
「詠さんが、破廉恥と言っていた影武者は、セグンダさんのことだった? オウモさんは、もうそこまで手を伸ばしていたのか?」
「つまり八大勇者パーティの一つ、〝SAINTS〟の当主が〝前進同盟〟の構成員と入れ替わっているってことかよ。六辻家の連中はいったい何をやっているんだ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、相棒である金髪ストレートの長身少年、五馬乂は、大きな衝撃を受けた。
「……影武者があの格好じゃ、本物の六辻詠さんがショックを受けるのも当然だよ。風評被害で訴えられるんじゃないか?」
「相棒、それどころじゃないぞ相棒っ。クマ国の過激派が、日本最大の勇者パーティに取って代わろうとしているんだから、もうちょっと視野を広げてくれ!」
「ニャー(桃太君と乂って、たまにボケとツッコミが逆転するわね)」
桃太と乂の混乱ぶりは、三毛猫に化けた少女、三縞凛音が肉球の愛らしい前足で思わず頭を抱えるほどだ。
「し、シショー。アンタがどんな偽名を名乗ろうと文句は無いが、六辻家と〝SAINTS〟の事情をそこまでバラしていいのか?」
「く、クライアントがだまっていないでちっ。もうすこしゴマカすでち!」
同時に、セダンタに救われた巨漢青年の石貫満勒や、日本人形めいた格好の幼い少女ムラサマも、思わぬ展開に泡をくっていた。
戦闘にかける意気込みが旺盛なだけで、満勒とムラサマにも一応の社会常識はあるらしく、凄い顔でアワアワと慌てている。
「そうは言っても、このキャンプには本物のニワトリ娘、六辻詠がいるからね。リーダーを欠いて烏合の衆になるかと思いきや、もう包囲網を完成させるなんて、焔学園二年一組はたいしたものだ。かつて二河家が率いた勇者パーティ〝S・O 〟や、五馬家の先代が鍛えた勇者パーティ〝N・A・G・A〟の精鋭にも匹敵するんじゃないかな?」
セグンダはそううそぶくと、刃先の折れた細く長い刀をぶんと振った。
茂みの一部が切り落とされて、昆布のように艶のない黒髪と、地味な服を着てなおポッコリと太ったお腹の目立つ少女、伊吹賈南と彼女が連れてきた学友達が伏兵として潜んでいたのが明らかになった。
「BUNOO!」
一人の生徒が手旗で信号を送ると、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺の使役する式鬼ブンオーの遠吠えが響く。
おそらく、心紺と彼女の親友である、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜が指揮する部隊も近くに隠れているのだろう。
「アハハ、隠れていたつもりだったが、妾の美しさが目立ち過ぎたかのお?」
「伊吹さん。自慢する前に、まずはお腹を引っ込めない?」
「男子生徒の目は、あっちに集中してるよ」
「「まってくれ、そんなことはないぞ」」
伊吹賈南が連れてきた生徒たちのうち男子は、口こそ否定していたものの、仮面を被るビキニアーマーの女戦士という、セグンダの倒錯的な格好に釘付けとなり、股間を隠すように前かがみとなっていた。
「ファファファ。初々《ういうい》しいじゃないか。だが包囲したからといって油断は禁物だよ。我が鍛錬の成果、とくとごろうじろ。舞台登場 役名偽装――〝剣鬼〟!」
女戦士セグンダが身につけた、翠玉色の細い胸当てとV字の腰ガードという、水着鎧から、陽炎のような熱がたちのぼり、サンバイザーめいた仮面からも鬼を連想させる角が二本張り出した。
あとがき
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