第223話 仮面の女
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西暦二〇X二年七月一二日夕方。
西陽を浴びて戦場にやってきた謎の闖入者は、翠玉色の細いブラジャーのような金属製胸当てに、股間を守る際どいV字のガードだけという、白い生足が艶めかしい、水着鎧をつけた妙齢の女性だった。
「「なんてハレンチな格好だ!?」」
ビキニアーマーは、背中のランドセルめいた蒸気機関と、オルガンパイプに似た排気口に繋がっていることから、おそらくは蒸気鎧の一種なのだろう。しかし、あまりにも肌色の面積が大きすぎる。
「な、なんでそんな装備なの? ひょっとして罰ゲーム? それともパワハラ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は顔を上気させ――。
「おやおや、知らないのかい? これは最近、冒険者の間で流行している蒸気鎧さ。〝S・E・I 〟が作った流通品は、あまりにセンスが悪いから改造しちゃった」
金髪ストレートの少年、五馬乂も、興味津々とばかりに赤い瞳を大きく見開いた。
「六辻家の砦でオレを追っかけていた時は、もうちょっとマシな格好だったろうがっ。そりゃあ、啓介の馬鹿野郎も部下にわざとピッチリスーツの戦闘服を着せていた疑惑があるけどよ。装甲をさらに減らす奴がいるか!」
「ファファファ。天狗君は軽装を良しとする〝葉隠〟を使うくせに変なことを言うね。キミの装束もセクシーだが、私も体のラインには自信があるんだよ。異界迷宮にいるんだから、ベストパフォーマンスを発揮できるよう日々気をつけないとね!」
桃太と乂は苦笑いした。
仮面をつけた女戦士の言葉は、祖平遠亜を除く、ケーキバイクングでうっかり食べ過ぎた焔学園二年一組の女生徒達。
具体的には、建速紗雨や、矢上遥花に突き刺さっていた。
そして大口を叩くだけあって、古臭いデザインには違いないが、女戦士の白い生足と豊かな胸の膨らみは魅力的過ぎて、目の毒だった。
だから、桃太は思わず視線を逸らそうとして、気づいてしまう。
「あれ? その仮面についているマイク、黒騎士と同じデザインじゃないか?」
桃太が思わずこぼした疑問に、女戦士はニヤリと口角を歪めた。
翠玉色の細いブラジャーのような金属製胸当てに、股間を守る際どいV字のガードという、扇情的なビキニアーマーを見せつけるように両手を大きく開き天を仰ぐ。
「目敏いね、出雲桃太君。私は何を隠そう、クマ国の代表カムロ殿の意に背き、地上進出を目論む過激派、〝前進同盟〟の協力者だ」
桃太も、彼の相棒である乂も、クマ国由来の妖刀ムラサマが関わっていたことで、おおよそそうではないかと疑っていたことから、特段驚くことはなかった。しかしながら――。
「そして、今は日本政府へクーデターをたくらむ六辻家と冒険者パーティ〝SAINTS〟代表の影武者さ! 〝六辻詠の偽物〟なんて呼ばれるのは嫌だから、スペイン語で〝二番〟を意味する、セグンダとでも名乗ろうかな?」
セグンダがその身分を明かすや、桃太と乂は大きな衝撃を受けた。
「詠さんが、破廉恥と言っていた影武者は、セグンダさんのことだった? オウモさんは、もうそこまで手を伸ばしていたのか?」
「おいおい、八大勇者パーティの一つ、〝SAINTS〟の当主が〝前進同盟〟の構成員と入れ替わっているってことかよ。六辻家の連中はいったい何をやっているんだ?」
あとがき
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