第222話 猫の予言と、もう一人の襲撃者
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三毛猫に化けた三縞凛音が、負傷して拘束された建速紗雨と矢上遥花を投げ飛ばして、戦域から離脱させた直後――。
「奥義開帳、飛燕返し!」
森の中から、銀色に輝く細く長い刀が飛び出し、あたかも燕が飛ぶような変幻自在の軌跡を描きながら、出雲桃太の額に刻まれた十字傷をかすめ、彼の右手の甲を打った。
「まだ伏兵がいたのか?」
「嘘だろっ、まるで気配が無かったぞ」
「真剣勝負に水をさすな、うわああっ!?」
「ひえええ、でち」
飛んできた刀の刃先は、ボッキリと折れたものの――
桃太が右手刀に衝撃波を圧縮して放つ必殺技、〝生太刀・草薙〟は、発動直前に干渉を受けたことで制御を失い、暴走を始めた。
爆音を轟かせながら、泥だらけの大地に刻まれた亀裂とクレーターをグシャグシャに崩し始める。
「まずい、足元が崩れる」
「ガッチャ!(まかせろ)」
あらかじめ凛音の忠告を聞いていた、金髪ストレートの筋肉質な少年、五馬乂は、桃太を俵抱きにして崩壊する足場からいち早く脱出。
「ヒャッハァっ。俺様達も仕切り直すぞ。ムラサマ、ありったけの力を寄越せ」
「で、ででーち。ふるぱわあああでちっ」
鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒も、日本人形めいた刀の化身ムラサマを背負ってクレーターの中からジャンプで飛び出し、辛くも生き埋めを逃れた。
「リン。お前、〝ホルスの瞳〟で未来を視たのか?」
「ニャン!(そう、私の〝鬼神具〟が教えてくれたの。このままじゃ、焔学園二年一組は全滅する)」
「いやいや話が突飛すぎる!?」
凛音の義眼と義耳である、〝鬼神具、ホルスの瞳〟には現状を分析して未来を予測する力がある。
とはいえ、あくまで手持ちの情報から推測するため、彼女に伏せた情報を用いて出し抜かれたり、彼女が知らない悪心に騙されたりする可能性もあるため、百パーセント未来を把握できるわけではない。
桃太も乂も、彼女の予言じみた不吉な言葉をまだ信じられなかった。
「ファファファ。満勒もムラサマも良い勉強になっただろう? 流石は、三縞家と〝C・H・O〟 四鳴家と〝S・E・I 〟を倒した、新たな勇者、出雲桃太君だ。天晴れと言っておこう」
桃太の草薙を止めた張本人らしき、くぐもった女の声が色とりどりの花をつけた茂みの中から聞こえてくる。
「こんなに細くて長い刀は、黒騎士の使う武器じゃない。いったい誰だ?」
桃太は崩れたクレーターの跡地に転がる、ポッキリと折れた刀の刃先を見て、先の戦いで共闘した好敵手ではないと知り、我知らず胸を撫で下ろした。
「刀身は二メートルくらいかよ、やたら長いなその刀。隠れてチャチャを入れるなんて、ダサいぜ?」
乂もまた首を傾げながら、赤茶けた色の錆びた短刀を構える。
「プロレス興業なら乱入劇もよくあることだろう? アイサツ前の不意打ちも、一度くらいなら笑って許したまえよ」
二人が油断なく背中合わせで待ち受けると、プシューという蒸気音をあげながら、森の中から人影が一歩を踏み出した。
「あちゃあ」
「でち」
巨体を震わせながら頭を抱える満勒と、困ったように頭を垂れるれるムラサマを横目に、謎だった剣士の姿が露わになる。
「「な、な、な……」」
桃太と乂は、顎が落ちるほど口を大きく開けた。
彼らの目に最初に映ったものは、顔を隠すサンバイザーのような仮面だ。
これはいい、しかし、それ以外が問題だ。
謎の闖入者は、翠玉色の細いブラジャーのような金属製胸当てに、股間を守る際どいV字のガードという、白い生足が艶めかしい、水着鎧をつけた妙齢の女性だった。
「「なんてハレンチな格好だ!?」」
あとがき
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