第220話 二人で一人
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「お次はシャイニング・ウィザード! ってな。どうよ、相棒。やっぱりプロレス技は格好いいだろ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の肉体を動かす蛇の仮面、五馬乂は、片膝立ちとなった鉛色髪の巨漢、石貫満勒の足を踏みつけにして、顔面に膝蹴りを見舞った。
「シャシャシャっ。〝葉隠〟をやぶらない限り、お前に勝ち目はないぜ!」
乂はそのまま宙返りを決めて、折れた倒木の上に着地。すぐさま、風を操って高々と跳び、まだ無事な森の木々を蹴飛ばしながらジグザグに移動する。
一方、満勒は膝蹴りをまともに浴びてのけぞったものの、巨大な大剣ムラサマを杖代わりに、荒れた大地に体重をかけて踏ん張った。
「……貴様の使う風の体術。珍妙な名前で呼んでいるが、どうやら五馬家と、勇者パーティ〝N・A・G・A〟に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝葉隠〟みたいだな。面白いっ。ムラサマよ、反撃するぞ。おおおおっ」
「見事な三次元移動でち。でも、それならそれで対策はあるでち。くらえ、糸術・赤蜘蛛!」
満勒が大きく息を吸い込むと、鉄塊のごとき大剣ムラサマから、鉄線が間欠泉のように噴出した。
空飛ぶサメに変じた建速紗雨や、女教師の矢上遥花を無力化したものと同じ鉄線が、空と大地に向けて発射――。
周囲一帯に張り巡らせ、陽炎のようにゆらめきながら熱を発して、桃太と乂を大気と草木もろともに焼き焦がす。
「相棒、出番だぜ」
「よしきた。我流・長巻!」
が、鉄線の発射と同時に、乂は肉体の主導権を明け渡していた。
桃太は右腕に衝撃波の刃を巻きつけ、燃える鉄線をバラバラに切り裂いて無力化する。
「空中にいるくせに、戦闘スタイルの切り替えに隙がないのか!?」
「それでこそ、現代の勇者。倒せば名をあげられるってものでち」
満勒とムラサマは歓喜の声をあげながら、空に向けて、二メートル近い大剣を突き出すも――。
「満勒さん、ムラサマさん。これまでの交戦で、貴方達のタイミングは把握した。ここで捕まえる」
「その大剣、強いがデカすぎるんだぜ。懐に入れば、かわすことも受け流すこともできねえだろ」
桃太は、突き出された大剣の腹を蹴るようにして、急降下。
乂と力を合わせ、手のひらに青く輝く暴風を生み出して、仕留めようとする。
「「必殺、螺旋……」」
されど、桃太と乂が大技を決めるく、踏み込んだ刹那――。
「ヒャッハァ! ひっかかったな」
「ねらいどおりでち」
大剣の姿が日本人形に似た幼子に変わって跳躍し、身軽になった満勒もまた横っ飛びに避けた。
桃太は螺旋掌という大技が空振りし、体勢が崩れてしまう。
「悪いな。俺様達も〝二人で一組〟なのさ」
「最強の武器をめざすのだから、変身だって使いこなしてみせるでち」
そんな桃太を狙い討つかのように、満勒の太い足が鐘を鳴らす撞木のように伸びて、幼子に変じたムラサマも扇から伸びる鉄線を束ねて斬りつける。
「こちらの作戦勝ちだ。卑怯と言うなよ」
「勝った者が強いんでち」
桃太と乂はチャンスから一転、満勒とムラサマの二人に正面と背後から挟み討ちに遭う窮地へ陥った。
あとがき
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