第219話 奥の手
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「異世界クマ国代表の演奏ねえ。どうなんだ、ムラサマ?」
「スサノオの偽物が引く三味線の演奏なんて、絶対に聴きたくないでち!」
鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒は三味線コンサートと言われてもわからず首を傾げていたが、彼が握る大剣ムラサマはカムロの音楽に拒否反応を示していた。
「ざーんねん、二人とも強制的に引っ張って行くサメエ。ジイチャンのお説教も覚悟するサメエ」
「このまま拘束して武装解除します」
二人に対し、空飛ぶサメとなった少女、建速紗雨は尻尾で泥水を浴びせかけ、女教師の矢上遥花がリボンを媒介に冷気で凍らせて、両者をギチギチに締め上げた。
「サメっサメエっ。桃太おにーさんにばかり気をとられたのが敗因サメエ」
「お姉さんも、ちょっとしたものでしょう?」
窮地に追い詰められた満勒だが、悔しがるというよりも、むしろ食い気味に身を乗り出した。
「見直したとも。だが、俺様とムラサマは止まらん。立ちはだかる障害を破壊してこそ、覇者たる者の生き様を世に示すことができる!」
「凍らせたり遠くにいたりすれば安全と思ったら、甘いでち。ムラサマが目指すのは最強の刀。爆ぜよ、鉄線。糸術・赤蜘蛛!」
鉄塊のような刃から、熱を帯びた鉄線が爆発的に噴き出して、凍った泥とリボンをひきはがし、逆襲に転じた。
「紗雨ちゃん、危ないっ」
「遥花さん、さがれっ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、彼の右顔に張り付く蛇を模した仮面、五馬乂の操る風の力を借りて加速、盾になろうと割って入ったものの、鉄線の数は膨大で守りきれない。
「ヒャッハァ、攻めていくぜえ」
「サメエっ」
「はうあっ」
紗雨と遥花は鉄線を浴びて、ぐるぐるまきになって転倒する。
潰れた緑の草木に流れる赤い血を見て、桃太と乂は怒りに身を震わせた。
「よくも紗雨ちゃんと遥花先生をやったな。平和なクマ国が眠たい世界だって? 人を傷つけて何が楽しいんだ!」
「デカい口を叩くのはいいがよ、要はお前、ただの親不孝者じゃないか!」
「むっかあっ。刀が血を流させるために生きて何が悪いでち!」
「よおし、ようやく本気になったか。ここからが本当の戦いだ!」
桃太は、満勒とムラサマは、絶対に止めなければならないと覚悟を決めた。
(冷静になれ。紗雨ちゃんの言う通り、満勒さんが俺に執着しているのは利用できる)
桃太は、黄金の光を放つ短剣を腰に差して穴だらけの大地を走りつつ、声をあげた。
「乂、例のやついくぞ」
「おうよ。任せな、相棒!」
桃太はひとまず回避に専念し、めいいっぱい近づいたところで、肉体の主導権を乂に委ねた。
「ヒャッハァ! 風の加速にも慣れてきたところだ。お前達も真っ向から叩き潰してやるよっ」
「満勒、油断してはダメでち。こいつらは、〝二人で一人〟でち!」
石貫満勒は泥地に埋もれた倒木を足場に大剣ムラサマを構えるが、乂もまた同じ倒木を踏みつけて、急角度で旋回。
「シャシャシャ。くらいな、延髄斬りだ!」
方向転換しながらジャンプして、……〝満勒の後頭部〟を足の甲で蹴り飛ばした。
「なん、だと!?」
満勒も、体術による攻撃を警戒していなかったわけではない。
しかし、彼がこの戦いで幾度となく受けた桃太の足技、〝我流・直刀〟は、正面から直線的な攻撃を仕掛けるものだ。
そのため、まるで人が変わったかのような体捌きの変化と攻撃性の違いに、ムラサマの忠告を受けていてなお反応が遅れ、片膝をついた。
「お次は、シャイニング・ウィザード(とびひざげり)! ってな。どうよ、相棒。やっぱりプロレス技は格好いいだろ?」
あとがき
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