第218話 最強への憧れ
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「ムラサマちゃんも、満勒さんと同じように詠さんの死や、六辻家と〝SAINTS〟のクーデターを望んでいるのか?」
「そうでちよ、そうなれば待望の乱世がやってくるでち。ほんとは、六辻詠の生命もクーデターもどうでもいし、なんなら満勒とだって〝りがいのいっち〟で共闘しているだけでちが――。あたちには、この世がぐちゃぐちゃに乱れて欲しい、山よりも高く海よりも深いだいじな理由があるんでち」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、鉛色の髪を刈り上げた巨漢青年、石貫満勒と交戦しつつ、鉄塊の如き大剣に宿る意思ムラサマと言葉を交わす。
「聞かせて欲しい。ムラサマちゃんがそこまで言う事情って何なんだ?」
「……クマ国には、古い道具に魂が宿る、付喪神という種族がいるでち。あたちが意識を得た一千年前、最強と呼ばれた刀があった。その刀、母様は人間になって旦那さんと結ばれ、ラブラブでたくさんの子供にも恵まれて、身寄りのないみなしごも引き取ってくれた。その一人があたちでち」
「いい話じゃないかっ。だったらなおさら乱世を望むんだ!?」
桃太はムラサマの過去を聞いて、彼女の言っていることが理解できなかった。
「わからないでちか? 母様は一千年前、刀ではなく人として生きることをえらんで、最強をやめてしまわれたでち。だから、あたちは母様に代わって最強になって、立派な旦那様をゲットするのでち!」
「旦那様をゲットするなら、人を殺さなくていいし、クーデターを起こさなくていいし、そもそも最強になる必要すらないよ!」
桃太は思わず、キャンプ中に響き渡るほどの大声でツッコミを入れた。
「そんなことないでち。母様と一緒に戦った剣士が言ってたでち。『自分たちが最強だったから、母様は運命の男と巡り会えたんだ』って。だから、あたちも最強になって、〝乱世で輝く強い男〟と結婚するのでち!」
しかし、ムラサマはこれまでの冷静さをかなぐり捨てて、まるで幼児がだだをこねるように鉄線を撒き散らす。
「それなのに、それなのにっ。八岐大蛇との戦いが終わって、一〇〇〇年のねむりからめざてみれば、カムロとかいうヘンクツジシイが治める眠たい世界になっていたでち。スサノオのふりをしている癖に、異世界を巻き込む楽しい戦争をジャマするダメな大人でち。だから地球でがんばるって決めたでち」
桃太はムラサマの攻撃を風を使って回避しつつ、初めて師匠であり、クマ国の代表でもあるカムロに同情した。
「サメエッ。いくらジイチャンが相手でも、言っていいことと悪いことがあるサメ」
ムラサマのあまりに酷い言いがかりには、空飛ぶサメに変身中の建速紗雨も、ノコギリのような歯をみせて威嚇し――。
「石貫満勒さん、ムラサマさん。貴方達の身勝手に、地球とクマ国を巻き込まないでください」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花も、ジャージ服を押し出す豊かな胸を揺らしつつ、袖口から無数のリボンを伸ばして交戦の意思を示す。
「遥花先生、こんな危ない刀はジイチャンの三味線コンサート二四時間に御招待サメ!」
ぷりぷりと膨れた紗雨はサメの尾びれで濡れた地面を叩き、満勒とムラサマに泥水を浴びせた。
「え。わたしはカムロ様の演奏、お上手だと思うのですが……」
更に遥花がリボンを伸ばして両者を拘束、泥水を凍らせて動きを止める。
「異世界クマ国代表の演奏ねえ。どうなんだ、ムラサマ?」
「スサノオの偽物が引く三味線の演奏なんて、絶対に聴きたくないでち!」
満勒は三味線コンサートと言われてもわからず首を傾げていたが、ムラサマはカムロの音楽に拒否反応を示していた。
あとがき
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