第215話 忍者 対 覇者
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鉛色の髪を刈り上げた大柄な青年、石貫満勒は、膝をついた出雲桃太と五馬乂に向かい、鉄塊の如き大剣を突き出して構え、灼熱の炎を伴って疾走した。
「あばよ、新しい勇者。テメェの伝説はここでおしまいだ。燃えよムラサマ。奥義開帳・魔竜咆哮!」
大剣から放たれる爆発的な〝鬼の力〟が、焔学園二年一組のキャンプ入り口を焼き払い、地面を引き裂きながら三メートル近い亀裂を刻む。
「サメメっ。サメは耳が聞こえなくても、鼻で感知できるんだサメエ」
「ありがとう、紗雨ちゃんっ」
しかし、青いサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が空飛ぶサメに変身し、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太を大きな口で咥えて救出。
「地形を破壊されて、もはや出入りは不可能。キャンプからの援軍は見込めなくなった。ですが、お姉さんの〝夜叉の羽衣〟も〝鬼神具〟のひとつです。乂くんはやらせません」
「遥花さん、助かったぜ」
矢上遥花もまた、栗色の髪を縛る赤いリボンが音の攻撃を弱めたのか、戦闘に復帰し、ジャージ服の裾からリボンを伸ばして乂を釣り上げた。
「乂、力を合わせよう。あいつらが追いつけない速度でぶっ飛ばしてやる」
「オーケイッ、レッツショーイットッ。やってやるぜ!」
桃太の黒い瞳が青く輝き、乂の握る錆びついた短剣が黄金色の光を発する。
「「舞台登場、役名変化――〝忍者〟ああっ。ヒアウィゴー!」」
乂は、黄金の蛇が喜び勇んで桃太に向かって飛翔し、ヘビ顔の仮面となって桃太の顔に張り付いた。
「ここから巻き返す!」
「さあ、一緒に地獄を楽しもうぜ!」
桃太の中で、暴風の如き力が荒れ狂い……。
先程までの交戦で負った傷は瘡蓋となって治癒され、ジャージも頭から足下まで覆う黒装束に変わる。
「ヒャッハァ! 着替えたからどうだって? こけおどしもいいところだ」
「そいつは、どうかな? 風遁の術を受けてみろ!」
「くらえ、ワイルドウインド!」
桃太はキャンプと分断された入り口のクレーターから、一〇〇を超える石片を蹴り上げて……。
乂のあやつる風で加速させ、大剣を担う巨漢の四方八方から叩きつけた。
「満勒、わかっているでちか? あたちが見るに、飛び道具はおとりで、ヤツらの狙いは近づいてからの大技でち」
「ヒャッハァ、そうだったかよムラサマ。伝説の妖刀ってのは伊達じゃないな!」
桃太は忍者らしく、牽制に意識を逸らせて、圧縮した風を叩きつける大技、螺旋掌を狙ったものの……。
乂が機関砲のごとくに撃ちだした石つぶての嵐は、満勒が振り回す炎をまとった大剣ムラサマに切り潰された。
「ヒャッハァっ。忍者だか知らないが、フェイントなんてつまらない真似はするなよ。覇者の一撃は、当たれば一発。満塁ホームランよ!」
「とらぬ狸の皮算用。まず当てててから言おう」
「シャシャシャ。一撃必殺とはいかなかったが、持久戦も悪くない。このナマクラは頑丈なだけが取り柄だぜ」
あとがき
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