第214話 鋼の肉体と精神
214
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、衝撃波を利用して跳躍し、崩された足場から脱出。
更には落下のスピードと肉体のウェイトを乗せた飛び蹴りを、鉛色髪を刈り上げた巨漢青年石貫満勒の胸板に直撃させた。
「やるねえ、この痛みが、俺様を〝覇者〟へと押し上げる。お前を叩き殺して食うニワトリはさぞかし上手いことだろうよ。鬼術・発火!」
満勒は上半身がくの字に折れ曲がるも、即座にムラサマを握る柄に炎をまとわせて殴りつけてきた。
「戦闘狂め。詠さんを殺させるものか!」
桃太と満勒が激しく競り合う中――。
「相棒、やる気になってくれて嬉しいぜ。五馬家に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝葉隠 (ハイド・ザ・リーヴス)〟の真価を見せてやる!」
三毛猫となった三縞凛音を安全な場所に逃し、身軽になった金髪の少年、五馬乂が、天狗面を被ったまま、錆びついた短剣を手に参戦――。
「桃太おにーさん、ガイ、手伝うサメエ」
更に修道服に似た青いサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、両手から水の弾丸を射出して援護――。
「お姉さんの生徒に、手はださせません」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花も、ジャージから無数のリボンを伸ばして盾をつくり、満勒が振るう大剣を受け止める――。
「ちいい。新しい勇者との戦いだぞ。チャチャを入れるな。どけ着ぐるみ女!」
「紗雨ちゃんに手を出すな、我流・直刀。もう一回!」
満勒は紗雨を大剣で殴りつけようとするも、無思慮に前へ出たところ、水たまりに足を取られて桃太の一撃を受け――。
「えーい、水たまりだのリボンだの邪魔だあ」
「そういう戦い方もあるって学んでおけよ。そおれコーナー最上段からの、ドロップキーック」
加えて、リボンの盾を足場代わりにした乂の飛び蹴りが顔面に直撃して、鼻血を吹き出した。
「が、ぐ、おおおおっ」
四人は、つかず離れずの距離を保ちながら、飛び蹴りなどを駆使して一撃離脱戦法を繰り返し、ジリジリと大剣を握る巨漢を追い詰めてゆく。
「ヒャハハ。痛いな。苦しいな。素晴らしい、俺様は今、生きている!」
「満勒、そろそろ仕掛け時でち。あまりスタミナを削られると大技も難しくなるでち」
「おうとも、覇者はあらゆる障害を乗り越える。見るがいい、新しい勇者よ。これがテメェから学んだ技のひとつだ」
ようやく鼻血止の止まった満勒は、冷静になったか大きく息を吸い込み、身の丈を超える巨大剣ムラサマを大地に叩きつけた。
ガンガガガン!!
という爆発音が響き、同時に、キーンという低い音が、周囲に飛び散った岩片で跳ね返って連鎖。
大音量は、周囲一帯を反射のボウルで包み込み、あたかも螺旋を描くように巻き込みながら増幅を続けた。
桃太、乂、紗雨、遥花の四人は、まるで頭の中をかき回されたような吐き気をもよおし、口と耳を押さえて膝をつく。
「今の技は、まるで俺の螺子回転刃みたいじゃないか! ここら一帯に音を反射させたのか?」
「衝撃の渦で広範囲をひねりつぶす、テメェの技にはまるで及ばない手品だよ。それでも、勝つのは俺様だ」
満勒は引き抜いた鉄塊の如き大剣を、桃太と乂に向けて構え、灼熱の炎を伴いながら疾走した。
「あばよ、新しい勇者。テメェの伝説はここでおしまいだ。燃えろ、ムラサマ。奥義開帳・魔竜咆哮!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)