第213話 六辻家からの刺客
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「舞台登場 役名宣言――〝覇者〟! テメェをぶちのめし、俺様が進む覇道の幕を開けてやる」
「トータとやら、光栄に思うといいでち、あんたはあたちが母様を超える一歩となるでち!」
鉛色の髪を刈り上げた巨漢、石貫満勒が、扇を持った幼い少女が変じた身の丈よりも巨大な鉄塊の如き大剣ムラサマを大上段から振り下ろす。
その一撃で、巻き込まれた周囲の木々が藁のように薙ぎ倒され、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太ごと押し潰さんと地面を大きく割った。
「待ってくれ、満勒さんっ」
桃太はとっさに足裏から衝撃波をうち出し、飛び退いて避けたものの、さすがは妖刀というべきか、想像以上の破壊力に背筋が凍る思いだった。
たが、それでも向き合わねばならない真実が、止めなければならない悪行がある。
「さっき情報が漏れると困るって言っていたけれど、乂……ミスターシノビが調べた、六辻家と〝SAINTS〟が異世界クマ国の過激派団体〝前進同盟〟と組んで、クーデターを計画しているのは本当なのか? 四鳴啓介さんと〝S・E・I 〟がやらかしたばかりだぞ」
「ヒャッハァ! そうとも、六辻家と〝SAINTS〟の反乱計画は、四鳴家と〝S・E・I 〟がやらかしたからこそ、始まったんだ。テメェ達が負けた後、正義の味方として駆けつける予定だったんだがな、テメェ達が勝っちまったことで台無しになった。日本政府を騙せないなら、強引にクーデターをやるっきゃないだろ!」
「強引にって、また大勢の人を殺すつもりか?」
「ヒャッハァっ。結構じゃないか。弱い奴、つまらない奴が死んでせいせいする。戦いの中でこそ、人間の魂は磨かれて光り輝くんだ。そのお祭りを、そこの天狗男なんかに台無しにされちゃ困るんだよ!」
満勒は、三毛猫を抱いた五馬乂を横目に、桃太を正面から見据え、歯を剥き出しにして笑った。
「それにニワトリが一羽、逃げてきたはずだ。そいつの首をはねるのも、俺様の仕事でね。こんがりローストチキンにしてやるさ。燃えろムラサマア!」
ヒグマを連想させる大男は全身の筋肉を躍動させ、鉄塊のごとき刀身に焔をまとわせながら、大剣を力強く突き出した。
「満勒さん。アンタは、六辻詠さんの命まで狙っているのか?」
桃太の瞳が一瞬青く輝き、彼の肉体に宿る〝巫の力〟が発動。
大剣の腹に白刃どりとばかりに手を添えて、炎もろともに受け流す。
しかし、ムラサマの重量のせいか、それとも〝鬼の力〟が作用したか、桃太は大穴の底まで転げ落ち、炎でジャージが焦げて鮮血が舞う。
「ヒャッハア、新しい勇者様。ニワトリ娘はテメェが確保してるのか。生かしておけない理由が増えちまった。そおれ、地の利を得たぞ!」
満勒が、穴に向かって大剣を振り下ろすも。
「我流・長巻!」
桃太は右腕に衝撃の刃を巻きつけて穴の底を叩き、棒高跳びの要領で大きくジャンプして空中に逃れ。
「我流・直刀!」
更に衝撃を用いて位置を調整し、落下のスピードと肉体のウェイトを乗せた飛び蹴りを、満勒の胸板に直撃させた。
「やるねえ。この痛みが、俺様を〝覇者〟へと押し上げる。お前を叩き殺して食うニワトリはさぞかし上手いことだろうよ!」
「戦闘狂め。詠さんを殺させるものか!」
あとがき
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