第212話 覇道を歩むもの
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、もうもうと湧き立つ土煙が薄れ、クレーター状の大穴に突き刺さる、ムラサマなる妖刀の実物を見て愕然とした。
長さにして約二メートル、幅三〇センチ以上。それは、武器というには、あまりに大きく、分厚く、重く、大雑把で、あたかも鉄塊のようだ。
「でかいよ。刀要素どこいった。これ、重さが一〇〇キロ超えてるぞ!?」
「おいおい、〝鬼の力〟を使うんだ。人間以上の得物をぶん回すなんて驚くことじゃないだろうよ」
桃太のツッコミを受けながし、土煙の中から現れたのは、鉛色の髪を刈り上げた、筋肉のかたまりを連想させる若き偉丈夫だった。
「ま、この子はちょいと特別だがヨ」
「そうでち、あたちは特別でち」
大柄な青年が身の丈を超える鉄塊を引き抜くや、森の樹々に囲まれたキャンプの入り口で、幼く甲高い声が響いた。
「今の声、どこから?」
「桃太おにーさん。今の声は、そのでっかい武器からサメエ」
桃太はとっさに探知の術を試みるも、青いサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が声の出所を把握する。
彼女の指摘は正しかったようで、巨大な武器は薄い煙をあげながら、ぼふんという音を立てて、扇を手にした幼い少女へと変身した。
「「ええええっ」」
巨大な青年の肩にしがみついた女の子は、少女というには、あまりに幼く、細く、軽く、華奢で、まるで人形のように見えた。
「額の十字傷を見るに、テメェが出雲桃太。〝C・H・O〟と〝S・E・I 〟を倒した、売り出し中の新しい勇者様だろ? せっかくだから、自己紹介といこうか。俺様の名は石貫満勒、このクソッタレな時代をぶっ壊す〝覇者〟になる男だ!」
「あたちは、〝叢左馬〟。満勒と共に最強を目指す、一〇〇〇年の時を超えて目覚めた妖刀でち!」
桃太はヒグマのように豪快な青年と、見るからに幼い少女の顔を何度も見て、納得したとばかりに手を叩いた。
「……そ、そっか。満勒さんとムラサマちゃんは、乂と同じ趣味なんだね」
「レアリイ? 相棒、その解釈はいくらなんでも無いんじゃねーの」
コンビを組む金髪少年、五馬乂が不平をこぼすも、天狗装束で勇者パーティの砦に忍び込み、返り討ちにあったばかりだ。
今更勘違いも何もないだろう。
「桃太おにーさん。その子の言うことは、乂みたいなコスプレ設定じゃなくて、たぶん本当のことサメエ。一〇年前は脇差しくらいの大きさだったそうだけど、『八闇家と勇者パーティ〝TOKAI〟に、ムラサマって意思をもつ刀が盗まれた』って、カムロのジイチャンも言っていたサメエ」
「へえ、着ぐるみとは変わった格好だが、物知りな嬢ちゃんもいるんだな。その通り、妖刀ムラサマは〝TOKAI〟によって異世界から持ち出され、〝SAINTS〟と取引されて、運命の如く俺様が手にすることになったってわけだ。そこの天狗野郎から情報が漏れると、俺様達も困るんでな。始末させてもらおうか!」
鉛色の髪を刈り上げた巨漢、石貫満勒は、幼い少女が変じた、身の丈よりも巨大な鉄塊の如き大剣ムラサマを軽々と担ぎ上げ大上段に構えた。
「舞台登場 役名宣言――〝覇者〟! テメェをぶちのめし、俺様が進む覇道の幕を開けてやる」
「トータとやら、光栄に思うといいでち、あんたは、あたちが母様を超える一歩となるでち!」
振り下ろされる一撃が、周囲の木々を藁のようになぎたおし、桃太ごと押し潰さんと地面を大きく割った。
あとがき
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