第211話 ムラサマ・ブレード
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
青い修道服に似たサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨。
栗色の髪を赤いリボンで結んだ、ジャージ姿の女教師、矢上遥花。
三人が悲鳴が聞こえた方角、焔学園二年一組の逗留するキャンプ入り口の森に駆けつけると、三人に縁深い少年、五馬乂がいた。
「すまん相棒、サメ子、リボン……遥花さん。手を貸して欲しい。六辻家と〝SAINTS〟のクーデター計画を調べていたら返り討ちにあった。それと、この格好の時は、ミスターシノビと呼んでくれ」
乂は、長い金髪を大銀杏のちょんまげに結って、高い鼻のついた天狗面をかぶっていたが、身につけた白い胴着と金色の外套はびりびりに裂け、高下駄の足も折れるというボロボロの格好だ。
そして乂の腕の中には、激戦を潜り抜けたか、あるいは傷の治療で力を使い果たしたか、三毛猫に化けた姿で気絶する、三縞凛音の姿もあった。
「ミスターシノビって、何さ? このおにぎり、俺が握ったんだけど食べるか?」
桃太は、乂が錯乱しているのではないかと誤解して、ひとまず落ち着かせようと、懐からおにぎりの入ったプラスチック製弁当箱を取り出した。
「エ、相棒のおにぎり? の、ノーサンキュー。すまん、戦闘直後で胃が受け付けないぜ」
しかし、消耗が激しいのか断られてしまった。
赤い瞳が「お前の手料理は苦手」と主張していたが、気のせいに違いない。
「ソーリー。ちゃんと事情を話す。クマ国の諜報部隊が、過激派の〝前進同盟〟が、六辻家が支配する勇者パーティ〝SAINTS〟のクーデター計画に一枚噛んでるって情報を掴んだんだぜ。オレとリンは、カムロの頼みで、第八階層〝残火の岩室〟に建てられた砦を調査しようと忍び込んだんだが、計画書をぶんどった直後に見つかって、フルボッコにされた」
「そんなことがあったのか、乂と凛音さ……ミスターシノビとリンちゃんが無事で良かった。じゃあ、二人は今、勇者パーティ〝SAINTS〟に追われているのか?」
「そうだ。追っ手は二人だが、相手が悪い。一人は当主の六辻詠の影武者で、もう一人はクマ国に伝わる伝説の妖刀、〝ムラサマ〟の使い手だ」
桃太は、新たな戦いの予感に武者震いをしつつ、伝説の妖刀いう単語に注目した。
「村正!? 乂、漫画か何かで読んだことがあるぞ。江戸幕府を開いた徳川将軍家に祟ると呼ばれた刀のことだろ?」
「ザッツロング(ちがう)、相棒、ムラサマだ」
「……乂くん。ひょっとして、南総里見八犬伝に登場する、刀身から水や霧を生みだす刀。抜けば玉散る氷の刃と謳われる名刀、村雨のことですか?」
「ユー、ミシャード(ちがうって)。だから、オレはミスターシノビで、妖刀の名前はムラサマだってばよ」
桃太と遥花、二人が同時に思ったのは、パチモンというか、バッタモンというか、すごく偽物っぽい名前だなあ、だった。
「妖刀ムラサマってのは、一〇年ほど前にクマ国から盗まれた〝鬼神具〟なんだが、契約者がいやがった。来るぞっ、かがめっ」
そう、乂が忠告した直後。
森からどでかい何かが飛んできて、焔学園二年一組の研修生達が泊まるキャンプの入り口に、耳をつんざく爆音をあげながら突き刺さり、眼前も見えないほどに濃厚な土煙をあげつつ大穴を空けた。
「こ、これが、妖刀だって!?」
桃太は、もうもうと湧き立つ土煙が薄れ、クレーター状の大穴に突き刺さる、ムラサマなるものの実物を見て愕然とした。
長さにして約二メートル、幅三〇センチ以上。それは、武器というには、あまりに大きく、分厚く、重く、大雑把で、あたかも鉄塊のようだ。
「でかいよ。刀要素どこいった。これ、重さが一〇〇キロ超えてるぞ!?」
あとがき
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