第209話 六辻家と七罪家
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(おばちゃん幽霊は、八闇家が紗雨ちゃんの家族を殺したと言った。これは、俺に警告してくれたのか?)
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、ジンベエザメの着ぐるみをかぶった少女、建速紗雨が一瞬、巫女服姿に変わり、とんでもない秘密を暴露したことを受け入れたものの……。
「紗雨ちゃん、今、とんでもないことを言いませんでしたか?」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花は、教え子の爆弾発言におおいに動揺した。
「サメエ?」
「あれ、か、勘違いだった……?」
しかしながら、一呼吸後に紗雨は元の姿へ戻っていたため、遥花はダイエットの空腹による幻視、幻聴であったかと頭を何度もふった。
「ごめんなさい、集中を切らしていたみたいです。臨時授業を続けましょう。最後に残った七罪家と六辻家の二家ですが、残念ながら獅子央孝恵校長の方針、冒険者組合が日本政府と協調する現状に、強い反対の姿勢を見せています」
この世界の社会構造は、異界迷宮カクリヨからの生産物なしに成立しないこと、また冒険者という私兵集団を擁していることから、あらゆる国の政権担当者は冒険者パーティを無視できない。
日本国内では最大の規模を持つ七罪家と六辻家は、先に反乱を起こした三縞家や、四鳴家に継ぐ勢力であり、政府をも脅かすほどの経済力と軍事力を保持している。
だからこそ、両家は増長しているのだろう。
「まず、七罪家と〝K・A・N〟ですが、当主の七罪業夢は、外国や反社会勢力とも積極的に伝手を持ち、若い頃は〝夜を統べる者〟と呼ばれ、アウトローを含む多くの冒険者に恐れられました」
遥花の奥歯にものが挟まったような口ぶりに、桃太と紗雨は不穏さを感じ取った。
「若い頃は、ということは……?」
「今はそうでもないのサメエ……?」
「七罪業夢氏には、昔から有名な悪癖があります。死体愛好家として知られ、亡くなった冒険者の遺体の一部を保存し、特別な部屋で鑑賞しているという噂が絶えないのです」
人の趣味それぞれというには、猟奇的に過ぎるだろう。
「そういった噂もあって主流にはなれず、業夢氏もまた年齢を重ねるごとに、その思想を〝死体にする〟――、今ある秩序を壊すことだけに傾けるようになりました。政局を引き起こす為なら、二枚舌や約定破りも日常茶飯事。これでは建設的な組織運営は不可能だと見切りをつけられて、多くの部下が彼の元から去ったそうです」
遥花は、かつて天才冒険者として活躍していたが故に……。
育成学校の教員となった今でも、否、教員であるからこそ、エース級の活躍をする冒険者の動向を把握していた。
「事実、七罪家は、二度のクーデターでも、公然と三縞家や四鳴家と繋がり、旗色が悪くなるや切り捨てるといった、節操のない裏切りを繰り返しました。もはや当主である業夢氏の威光は薄れ、一葉家の残党をまとめる一葉朱蘭に主導権を握られつつあるようです」
「く、黒いなあ」
「ブラックサメエ」
だが、七罪業夢の場合、あらゆる意味で自業自得であろう。
「最後に、六辻詠さんが当主の六辻家と〝SAINTS〟ですが……。
炉谷先輩から聞いた話によると、冒険者パーティの運営は、六辻剛浚氏や六辻久蔵氏といった親族に乗っ取られているようです。
詠さんを奥の部屋へ閉じ込めて、公の場には影武者を出すことが常日頃だったとも」
桃太は背負っている赤い髪の少女、詠を振り返り、紗雨もまた青い目で悲しげに見つめた。
「六辻家は今や、大小さまざまな派閥が利益を求めて互いの足を引っ張り合い、時には実力行使で蹴落とすことに注力しています。
私の知る限り、当主である詠さんの為に奮闘していたのは、炉谷道子先輩だけでした。そんな彼女が追われたならば、もはや派閥争いは収拾不能なのかも知れません」
「どこもかしこも、ぐだぐだなんだなあ」
「そんなことを、やってる場合じゃないサメエ」
あとがき
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