第208話 五馬家と八闇家
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「残る四家の話をしましょう。五馬家が差配する〝N・A・G・A〟は、乂君の弟である、碩志代表の元に若手冒険者が集まり、三縞家と〝C・H・O〟の冒険者を加えて復活中です。獅子央孝恵校長との関係も良好で、唯一信頼できる勇者パーティでしょう。碩志様は、迷宮巡回の一貫で、この第六階層〝シャクヤクの諸島〟に向かっているそうです。今週中には会えますよ」
栗色の髪を赤いリボンで束ねた女教師、矢上遥花は、桃太の瞳を見てまっすぐ見て、安心するようにとばかり、ジャージの生地を押し出す胸元を叩いてみせた。
「〝N・A・G・A〟参加メンバーの多くは、体育会系なので驚かれるかも知れませんが、基本的には公明正大、真っ向勝負を是とする、爽やかな気風のパーティです。桃太君が詠さんを保護するにせよ、いずこかに託すにせよ、必ず力になってくれるはず」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は……。
(それは、俺が新しい冒険者パーティを作るのだとしても?)
と尋ねようとして、今はまだ時期尚早と喉の奥へ引っ込めた。
「そっか。乂の弟が来るのか、どんな人なんだろう」
ジンベエザメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、五馬家が来ると聞いて、ニコニコと微笑みながら着ぐるみの尻尾を振っている。
「桃太おにーさん。紗雨は、幸保さんに逢いたいサメ。迎撃戦も籠城戦も凄い人で、二年一組の皆にも良くしてくれたんだサメエ」
「うん、俺ももう一度会ってみたい。〝N・A・G・A〟が来る日が楽しみだね」
四鳴啓介と〝S・E・I〟による騒乱は、神鳴鬼ケラウノスの引き起こした電気異常によって交通事故や病院事故が多発し、多くの民間人が巻き添えで死傷する陰惨なものだった。
それでも、もし救いがあったとするならば、五馬碩志のような若手冒険者が活躍の場を得て、幸保商二のような元〝C・H・O〟所属の良心的な冒険者に社会復帰の道が開かれたことだろうか。
「次に、八闇家と、冒険者パーティ〝TOKAI〟ですが、今のところ、日本政府と冒険者組合とは適切な距離を保っているものの、一番厄介な家かも知れません」
遥花は桃太と紗雨にどう伝えるべきか迷ったのか、一度浅く息を吐いて、胸元を揺らしながら深く息を吸った。
「五馬家とは対照的に、八闇家は手段を選ばない家風です。当主の八闇越斗は、〝斥候〟から派生した特殊な役名を持つ冒険者を集め、表には出せない秘密部隊を抱えているそうです。そのひとつがクマ国で破壊工作活動を行い、カムロ様に追い払われた過去があります」
「……紗雨ちゃんの家族を殺した犯人は、八闇家と〝TOKAI〟だよ。だから、おばちゃんは、あの人達嫌いだなあ」
「え?」
桃太は、ジンベエザメの着ぐるみを着ていたはずの紗雨が、何の前触れもなく巫女装束に着替え、控えめだったはずの胸とお尻が大きくなっているのを見て、驚きで目を瞬かせた。
(賈南さんは、彼女のことを〝太古の荒御魂〟って、言っていたっけ。おばちゃん幽霊、また紗雨ちゃんに取り憑いたのか?)
遥花も、紗雨が憑依される光景を見て仰天したのか、何度も目をこすっている。
「紗雨ちゃん、今、とんでもないことを言いませんでしたか? あれ?」
「サメエ?」
が、次の瞬間には元の紗雨に戻っていたため、遥花はダイエットの空腹による幻視、幻聴であったかと頭を何度もふった。
「か、勘違いだった……?」
あとがき
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