第207話 八大勇者パーティの失墜と、出雲桃太の躍進
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「一葉家、二河家、五馬家が甚大な被害を被ったお家騒動の後、冒険者組合は、伊吹賈南さん。……と、一応は関係のないことになっている獅子央賈南さんが掌握し、〝鬼の力〟を広めるために、日本政府へ様々な圧力をかけました」
「桃太おにーさん、ひょっとして賈南ちゃんって黒幕とかラスボス……」
「紗雨ちゃん、それ以上いけない。そうさせないために今一緒に勉強しているんだから」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、ジンベエザメの着ぐるみを着た銀髪碧眼の少女、建速紗雨は気絶した六辻詠をキャンプのテントまで運びながら、栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花の臨時授業を聴いて……。
昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南の得意げな顔を脳裏に浮かべずにいられなかった。
賈南の正体は、〝鬼の力〟を生み出す根源、八岐大蛇の代理人だ。それ故に、鬼の力が持つ悪質な衝動を抑える研究もわざと止めていたらしい。
「それから一〇年の月日が流れ、異界迷宮カクリヨの探索に必要な〝鬼の力〟は、日本を含む世界各国でおおいに広まりました。時に、暴力的になったり、犯罪行為に走ったりする勇者パーティ〝C・H・O〟の冒険者を見た三縞家の当主である凛音様は、〝鬼の力〟が精神に悪影響を及ぼす危険性に気づき、獅子央賈南様の手から冒険者組合を取り戻そうと大志を抱かれました」
もしも凛音が、穏便なやり方で冒険者組合の改革に成功していたなら、その後の歴史はまったく違ったものとなっただろう。
でも、そうならなかったことを、桃太と紗雨は知っている。
「しかしながら、凛音様の理想は、〝C・H・O〟の副代表であった鷹舟俊忠や、幹部の黒山犬斗に歪められ、半年前の軍事クーデターに繋がりました。そして桃太君を利用し、冒険者組合を牛耳ろうとした四鳴家と〝S・E・I 〟もまた貴方にクーデターを阻止され、解散は避けられないでしょう」
桃太と紗雨は、重い息を吐いた。
「そっか、八大勇者パーティと言っても、一葉、二河、三縞、四鳴と、もう半分が潰れてるんですね」
「いっそ四大勇者パーティに変えた方がいいんじゃないサメエ」
「そのことなんですが、日本の世論はもはや八大勇者パーティを見放しつつあります。彼らに変わる新たなヒーローと目されているのが、桃太くん、貴方です」
「……なんで?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、驚きのあまり、背負った六辻詠を危うく落としかけた。
「桃太おにーさんは、日本を二度も救ったサメエ」
「桃太くん。貴方はお姉さんの誇りです!」
ジンベエザメの着ぐるみを着た銀髪碧眼の少女、建速紗雨が桃太の左腕に触れて、矢上遥花が顔を覗き込むようにして手を頬に添えた。
「そう、か。紗雨ちゃんと遥花先生がそう言ってくれるなら、自信を持ってもいいのかな」
「もちろんサメエ」
「はい。大丈夫、桃太くんならきっと八岐大蛇にだって負けません」
三人は互いの体温を感じて照れながら、キャンプ地を目指して歩く。
「残る四家の話をしましょう。五馬家が差配する〝N・A・G・A〟は、乂君の弟である、碩志代表の元に若手冒険者が集まり、三縞家と〝C・H・O〟の冒険者を加えて復活中です。獅子央孝恵校長との関係も良好で、唯一信頼できる勇者パーティでしょう。碩志様は、迷宮巡回の一貫で、この第六階層〝シャクヤクの諸島〟に向かっているそうです。今週中には会えますよ」
あとがき
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