第202話 第三の変身少女
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空飛ぶサメの格好だった建速紗雨が、ジンベエザメの着ぐるみを着た銀髪碧眼の少女に戻ると、赤いトサカのついたニワトリもまた人間の女の子へ変身した。
おそらくは、桃太と同年代か一つ年上だろう。年上でグラマラスな矢上遥花には及ばないものの、まるまるとした胸やお尻が愛らしい少女だった。
しかし、二つのお団子髪でまとめた赤い頭髪の上に、天使を連想させる光輪が浮いていたことが、彼女がただの人間ではないと証明している。
「ニ、ニワトリから人間に変わった?」
「これって、紗雨ちゃんや、乂君がやる変身?」
「え、他にもできる人っていたの? それとも、紗雨ちゃんの関係者?」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ担任教師の矢上遥花、瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺らは、少女がカクリヨの果てにある異世界クマ国ゆかりの人物であったのかと驚愕し……。
「なんだ。天使みたいな光輪をつけているが、出雲、この子も特殊部隊ってことか?」
事情を知らない七三分けの男子生徒、羅生正之だけは、やや的外れな推測をした。
これには理由があり、テロリスト団体〝S・E・I 〟との戦いで共闘した五馬乂と黒騎士について、一般生徒にはクマ国のことを明かせない事情から、所属不明の特殊部隊員と説明されていたのだ。
乂がかっ飛んだデザインの皮ジャンを着こなし、黒騎士も黒い全身鎧を外さなかったことで、少女の目立つ光輪が、彼らと同じ特殊部隊ではないかと連想させたのだろう。
「どうだろう? 羅生、ちょっと話してみるよ」
乂が黄金色の蛇に、紗雨が空飛ぶサメに変身する理由は、彼と彼女が契約を交わした〝鬼神具〟と呼ばれる〝鬼の力〟を秘めた短剣と勾玉の影響によるものだと知っていた。
ゆえに、赤いお団子髪の少女もまた、なんらかの強大な〝鬼神具〟に呪われているのではないかと疑いながら問いかけた。
「貴方のお名前は?」
「わ、わたくしは、六辻詠ですわっ」
桃太は、少女の名乗りに首を傾げた。
「六辻って、八大勇者パーティのひとつ〝SAINTS〟を束ねる、あの六辻家?」
「コケッ。そう、当主なんです、偉いんですよー。ひ、ひれふしなさいませっ」
詠は偉そうにふんぞり返って告げたものの、彼女のぽよんぽよんした軟らかそうな体はぶるぶると震えていて、まるで信憑性がなかった。
「で、その詠お嬢様は、どうして異界迷宮カクリヨの〝第六階層・シャクヤクの諸島〟に来たのですか?」
「コケっ。事情があって、あの箱に隠れてたらここに来ちゃったんですの。道中のご飯は、お恥ずかしながら、缶詰や干しパンをつまみ食いしちゃいましたわ」
なるほど食料コンテナに隠れていたのなら、食料に困ることはないだろう。
「遥花先生、どうしましょうか?」
「まずは、ご実家に連絡を入れるサメエ?」
桃太と紗雨が、担任教師である遥花の顔を伺うと。
「ふざけるな、偽物め」
羅生が、火にかけたやかんのように顔を真っ赤に染め、七三分けの髪を逆立てながらブチきれていた。
「嘘八百もほどほどにしろ」
「コケっ!?」
羅生が怒りのままに掴みかかろうとしたところで、桃太が割って入って止め。
詠が恐怖のあまり逃げ出そうとするのを、紗雨が回り込んで彼女の手を掴んだ。
「出雲、邪魔をするな。紗雨ちゃん。そのニワトリ女を離すなよ。実家が六辻家と付き合いがあるから、詠様の顔は知っている。こいつは偽物だ」
「コケエエッ。わたくしは本物、実家は偽物にのっとられてしまったんですわあ」
あとがき
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