第199話 緊急狩猟大会
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西暦二〇X二年七月一二日朝。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太ら、焔学園二年一組の生徒は、異界迷宮カクリヨの第六階層、〝シャクヤクの諸島〟で夏季休暇を楽しむ予定だったが――。
「本日から海の利用を解禁し、自由時間を予定していましたが、念のためにキャンプ周辺の安全を確保することにしました。今日一日は狩猟大会を執り行います」
「「マジで!?」」
「「ど、どういうこと?」」
栗色の髪を赤いリボンでまとめた担任教師、矢上遥花から意外な指示を受けたことで、男子研修生達は、ジャージからまろびでそうになる彼女の胸とお尻に目を吸い寄せられつつも、「せっかくの休暇なのになぜ?」と首を傾げた。
(痩せるんだサメエ)
(痩せないと、水着から胸がこぼれちゃう)
(水着でお腹目立つね、なんて思われたら生きていけない)
しかしながら――。
今やクラスの中心人物となった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が最近愛用している青いサメの着ぐるみの代わりに、いかにも汗をかきそうなジンベエザメを模した白く分厚い着ぐるみをかぶり――。
遥花はもちろん、他のクラスメイトの女子一同も揃って、運動用のトレーニングウェアや、スウェットスーツを着ていたことから――。
(ああ、昨日のケーキバイキング、食べ過ぎたんだ)
(ダイエットのために、海水浴を一日伸ばすつもりかあ)
男子生徒一同は、おおよその真相に気づくことができた。
桃太を筆頭に大半が、「敢えて火中の栗を拾う必要はない」と沈黙を守ったのだが……。
一際目立つ大柄な少年、林魚旋斧だけは、自慢のリーゼントが象徴するような、いらぬ反骨精神を発揮してしまう。
「お、おい。クラスのカリキュラムは遥花先生に任されているからいいけどよ。いくら狩猟大会をやっても、一日で腹を凹ませるのは無理があるんじゃないの?」
失言の結果、女子生徒一同から氷点下の視線を向けられたのは言うまでもない。
「いけない、林魚」
「蛮勇がすぎるぞ、死にたいのか?」
「迷宮内で殺人事件なんて勘弁ですよ」
桃太をはじめ、七三分けの細身少年、羅生正之や、天然パーマが目立つ小柄な生徒、関中利雄ら、周囲の男子研修生達が口をふさいだことで、幸運にも林魚は命を落とさずに済んだ。
「それでは、狩猟大会はじめ!」
遥花が号令をかけるや、紗雨達は昨日のカロリーを消費するために、島中を走り回って戦った。
(運動運動……)
(ダイエット……)
(狩る狩る狩る……)
女子生徒達が放つ殺気は、〝C・H・O〟の黒山犬斗や、〝S・E・I〟の四鳴啓介といった、これまで倒してきた〝八岐大蛇の首〟もかくやという凄まじいものだった。
「HIDEE!?」
「GYOEE!?」
彼女達は森や川をローラーで押し潰すかのようにモンスターを狩ってゆき、体重増加の怒りをぶつけられた哀れな獲物達を仕留めていった。
「まさに一騎当千!?」
「むしろホラー!?」
「あんなに狩っても、保存食にしても持ち帰れないんじゃ」
桃太達、男子生徒がちまちまと手頃なモンスターを狩りながら、後のことを不安がっていると、一人だけ体重に変化がなかった祖平遠亜がスーツケースを手にやってきた。
「それなら問題ない。いざとなったら、先の戦いで手に入れた四次元ポケッ……ゴホン。私の胡蝶蘭の中へ保存すればいい。それに昨日ご馳走を振る舞ってくれた冒険者パーティ〝Chefs〟が新しい道具を持ってきたから、彼らに売却するんじゃないかな?」
「ああ、あれかあ」
桃太達が遠視鏡を覗くと、五トンもの容量を持つ一二フィートのコンテナを積んだ、蒸気アシストつき巨大リヤカーが並んでいた。
あとがき
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