第198話 禁断? の真実
198
西暦二〇X二年七月一一日夕刻。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太ら、焔学園二年一組の研修生達は、料理上手で有名なパーティ〝Chefs〟提供のケーキバイキングを、腹一杯になるまで楽しんだ。
戦勝パーティはつつがなく終わり、異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟の海が黄金から紫に染まる頃――。
ドラム缶に足場となる木板を入れて作った、お風呂のある天幕から、「ギャーーっ」という絹を裂くような悲鳴がキャンプ中に響き渡った。
「敵襲か!?」
「テロリスト団体〝S・E・I 〟の残党か?」
「モンスターが襲ってきたの?」
「それとも、覗きをする馬鹿が出たか?」
折しも、女子の入浴時間だ。
男子生徒の中から、一時の欲望に任せて命を投げ捨てる馬鹿野郎が出た可能性だって否定できない。
「まずは行こう。紗雨ちゃん、みんな、大丈夫?」
「何があったんだ?」
「不審者でも怪物でも、ぶっとばしてやるぜ」
桃太を先頭に、焔学園二年一組の男子生徒一同が、血相を変えて現場に駆けつけたものの――。
「桃太おにーさんは、来ちゃ駄目サメエエ」
「男子生徒の皆さん、お風呂中です!」
「きゃあああっ」
「「なんで!?」」
――天幕の中から、ありったけの桶をぶつけられて追い払われた。
とはいえ、女子達が男子生徒をすげなく追い払ったのには、切実な理由があった。
すなわち、ブルーシートの上に置かれた体重計が示す針の数字である。
「サメエエ、なんてこったサメエ」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、白い真珠のように輝くほっそりとした体が、目に見えて丸くなっていることを自覚して、がっくりと膝をついた。
「わ、わたし、今日は一日中、酔っぱらっていたんですか。は、恥ずかしい。ああーっ」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花はようやく素面に戻ったのか、桃太とケーキを食べさせあったことを思い出し、ショックのあまり赤面した。
そればかりか暴食の結果、豊かな胸は更に大きくなっており、体重も当然のように増えていて、目をくるくる回しつつ卒倒した。
「な、なんじゃーっ。数ヶ月の節制と減量が水の泡になったぞ」
昆布のように艶の無い髪の少女、伊吹賈南に至っては、わざわざ体重計に乗らずともわかるほどに、見る陰もなくお腹がぽっこりと膨らんでいる。
鬼らしく、あるいは蛇らしく欲望のままに暴飲暴食し、皿を重ねたのだから当然といえよう。
「遠亜っち、どうしよう。こんなんじゃ、水着が着れないよ」
最期の悪あがきとばかりに、いつも着けている呪符を仕込んだ鬘のサイドポニーを外しショート髪姿となった柳心紺も、無情な数字を見て顔を覆いへなへなと崩れてしまう。
「心紺ちゃん、紗雨ちゃん、矢上先生も……、一瞬の油断が命とりだよ」
ただし、祖平遠亜だけは、常在戦場の心掛けで自制していたため、普段と変わりなく平然としていた。
「「あんぎゃー」」
このように、一人を除く女子全員の体重が増えていたことから、翌日の七月一二日が、こうなったのは自然のなりゆきだろう。
「本日から海の利用を解禁し、自由時間を予定していましたが、念のためにキャンプ周辺の安全を確保することにしました。今日一日は狩猟大会を執り行います」
「「マジで!?」」
あとがき
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