表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/788

第19話 破滅と復興の大地

19


「桃太、それは」

「サ、サメエエ」


 桃太とうたが思わず口に出してしまった、なぜクマ国が地上で認識されていないのかという疑問に、がい紗雨さあめは顔をこわばらせた。


「桃太君はさといな。実は、冒険者組合も日本国政府も、地球の国家上層部も、とうにクマ国の存在を知っているよ。その上で隠しているのさ」


 桃太はカムロの低い声色から、冷たい怒気を読み取って、背筋がヒヤッとなった。


「でも、この話は今度にしようか。先にクマ国の始まりから話した方が良さそうだ」


 牛頭の仮面を被った村のまとめ役、カムロは桃太と、紗雨、乂を屋敷へと連れ帰る途中で、〝異世界〟の成り立ちについて話してくれた。

 驚くべきことに、〝こちらの世界〟は絢爛けんらんたる古代文明を築き上げた後、一度滅亡したのだという。


「一〇〇〇年前に、世界を自分のものだと勘違いした馬鹿な集団がいたんだ。名前を仮に〝八岐大蛇やまたのおろち〟としておこうか。そいつらは、君たちの世界で言うところの大量殺戮兵器を暴走させ、世界中に呪いを振り撒いて人類の大半を殺害した……」

「そ、そんなことが、あったんですか」


 桃太は内心、そんな馬鹿なと笑い飛ばそうとして、地球も笑えないことに気がついた。

 半世紀以上前に、某軍事独裁国家が〝核兵器に似た新型兵器〟の暴走で吹き飛ぶまで、地球も核の報復合戦で滅亡する可能性があったのだから。

 否、今は心配ないと、どうして否定できるだろう?


「桃太君のいる地球にも、避難シェルターとかコールドスリープとか、そういう技術があるのだろう? 幸いにも蘇生に成功した人々が、この世界を復興させてクマ国を建てたんだが、大地に呪いの影響が残ってしまってね。地球の人々とは外見が違うんだ」


 桃太はなるほどと頷いて、新しく友となった二人を見た。

 乂が村民からいただいたきゅうりにかじりつき、紗雨が行儀が悪いとガミガミ叱っている。

 子供達を優しい視線で見守るカムロの足は、相変わらず見えない。


「カムロさんも、それで足が見えないんですか?」

「僕は少し事情が異なる。半世紀以上前に、キミ達のいる地球と繋がった時、異界迷宮カクリヨが出現したことで、クマ国でもモンスターが暴れてね。地球と同様に、一度は滅びの際まで追い詰められたんだ」


 桃太は、地球と異世界クマ国が繋がった理由も、異界迷宮カクリヨが両世界に出現した理由も、某軍事国家による新型兵器実験の暴走と関係があるのではないか? と感じたが、口には出せなかった。


「僕はこの世界の危機に呼び出された、大昔の幽霊だよ。まったく死後にまで働かされるなんて、ひどい残業にもほどがあるだろう?」

「クマ国には、死んだ人を蘇らせる方法があるんですか?」


 もしそんな手段があるのなら、殺されたくれ陸喜りくきにもまた会えるかも知れない。

 そう考えた桃太が食い気味に尋ねると、カムロは肩をすくめた。


「まさか。そんな都合の良い方法なんて、あるわけない。僕も本当は死んだオリジナルとは別人だよ。似ているだけの幽霊を影武者にたてたんだ。里の皆には内緒だよ」


 桃太は「それでも貴方は幽霊なのでしょう」と指摘しようとしたものの、踏み込めなかった。

 情報量が多すぎて、カムロがいかなる真実を話し、どんな嘘をついたのか、彼には判別がつかなかったからだ。


「さて、着いたぞ。靴はその靴箱へ置いてくれたまえ」


 会話に夢中になっている内に、太陽は西の空に沈み、目的地に到着していたらしい。

 屋敷の門は大きく、庭には紅葉を迎えた大小様々な木が植えられ、石の敷き詰められた区画や、鯉の泳ぐ池まであった。

 桃太は、情緒のある玄関をくぐり靴を脱いで床にあがると、廊下まで広くて気後れした。


「突き当たりの部屋にある風呂を沸かしてあるから、汗を流すといい。その間に僕は医者を呼んで、お粥を用意しよう。明日はいただいた野菜を使って、ささやかながら宴を開こうじゃないか」


 桃太は頷いた。礼を言おうとして胸が詰まった。

 親友を失い、職場を追われ、新たな友を得て、異世界に迎えられた。

 張り詰めた緊張が解けた瞬間、心の中がぐちゃぐちゃになって、両目からボロボロと涙がこぼれた。


「よーし桃太。一緒に入ろうぜ。紗雨も一緒に来るか?」

「さ、サメエっ」

「サメの格好なら大丈夫だろ。って、いきなり変身して歯を剥き出すなよ、怖いぞ」

「乂。紗雨ちゃんは女の子なんだから、からかっちゃダメだよ」

「むふふー。ガイと違って、桃太おにーさんはわかってるサメ」


 桃太にとって、彼の肩を何でもないように叩く乂と、普段と変わらない顔で手を引いてくれる紗雨の存在は救いだった。


「桃太君、安心したまえ。キミと遥花さんは、このクマ国にいる限り守ってやれる」

「ありがとうございます」


 桃太は、カムロの配慮に今度こそ礼を言って、乂と紗雨に連れられるままに、ドタバタと湯殿へ走っていった。


「そうとも、子供が戦うなんて間違っている。キミ達を守るのが、僕達大人のつとめだ」


 カムロは三人を見送ると、懐から和紙を取り出して鶴を一二羽ほど折った。


「まずは医者、次にギオン、ヤマト、サカイ、ツシマ、エド、イナバにヒメジ……他にも必要か。遥花さんが追われたのなら、きっと一〇年前の騒動に匹敵するだろう。忙しくなりそうだ」


 カムロは、本物の鶴のように一声鳴いて飛んでゆく折り鶴を見送った後、粥を炊くべく、台所の竈門かまどに火を入れた。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 地球の国々がクマ国を隠している理由は、はぐらかされてしまいましたか。 かなり事情に詳しそうですし、クーデターの理由とか、一〇年前の騒動とか、世界の危機に呼び出されたとか、聞きたいことが山ほど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ