第1話 予期せぬクーデター
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すべての始まりは、西暦一九六一年の秋にさかのぼる。
某軍事大国が行った新型兵器の暴走により、世界は一夜にして姿を変えた。
五〇メガトン級の〝核兵器に似た何か〟が爆発したことをキッカケに、実験場となった北極海雪原に、異次元へ繋がる〝裂け目〟が生じたのだ。
次元の扉からは、禍々しい〝赤い霧〟と〝黒い雪〟が噴出し、伝説上の存在と思われていた〝悪魔や妖怪に似た怪物達〟が這い出してきた。
軍事大国と周辺国家はすぐさま軍隊を出動させて怪物と交戦するも、戦車、戦闘機、ミサイルや自走砲、果ては核兵器を含む現代兵器が一切通用しなかった。
ユーラシア大陸の東半分は異形のモンスターに蹂躙され、悪鬼羅刹が蠢く殺戮の荒野と化した。
異界からの侵略は止まらない。怪物達は、海を越えてアメリカ大陸やオーストラリア、日本列島にも出現し、次元の裂け目を各地に創り出した。
しかし、人類は未曾有の危機を前に、一致団結した。
世界各国が、モンスターとの交戦情報を共有した結果――。
たとえば〝ひのきのぼう〟や〝はがねのつるぎ〟のような、機械に非る武器であれば怪物に傷をつけられることを証明し、次元の裂け目が双方向に通じる〝転移門〟であることも確認した。
各国は鍛えに鍛えた精鋭部隊を、転移門の先にある地獄――〝ヘル〟〝ジャハンナム〟あるいは〝カクリヨ〟と名付けた、異界生命体の本拠地へ派遣。
人類の命運を背負った軍人達は、厳畯な自然が作り上げる迷宮で多大な犠牲を払いつつも、貴重な情報と資源を持ち帰った。
驚くべきことに……。
異界の獣から採れる油は、石油や石炭、あるいはウランを超える莫大な熱エネルギーを発生させた。
異界の昆虫や海棲生物を覆う甲殻は、鋼鉄を遙かに上回る強度と軟性を持っていた。
異界の樹木は、貧困や飢餓に苦しむ国々の食糧問題を大きく改善するほどに、潤沢な果実の収穫が可能だった。
そして人類は、獲得した迷宮の資源を解析・研究することで、異界の怪物をも討ち果たす超能力――〝鬼の力〟――の開発に成功したのだ。
人類は決断した。
ユーラシア大陸の半分と周辺海域という、歴史上最大の喪失を補填すべく、資源を求めて異次元へと逆進行を開始したのだ。
あらゆる精密機械が作動せず、〝鬼の力〟という個人能力に依存する迷宮攻略には、自衛隊のような既存の軍隊に留まらない新たな組織が必要とされた。
一九六〇年代、時の宰相たるI首相は元々進めていた所得倍増計画に加えて、新資源獲得計画を推進。
怪物退治で名を馳せた英雄、〝獅子央焔〟と共に、のちに『冒険者組合』と呼ばれる、異界迷宮探索を請け負う民間団体を作り上げて、日本に高度経済成長をもたらした。
それから、半世紀以上の時が流れた。
冒険者組合と、花形となった探索チーム――。
いわゆる勇者パーティは〝鬼の力〟を独占し、発掘品の配当を思うままに差配することで、政府をも超える絶大な力を得ていた。
しかし、権力は腐敗する。
絶対権力は、絶対に腐敗する。
「我々は異界兵器〝千曳の岩〟を使い、日本政府と愚民どもを打倒する」
「我々の義挙に賛成しない者、我々が認めるに足りぬ劣等生は、真の仲間ではない!」
「ええーっ」
西暦二〇X一年の秋。
八大勇者パーティのひとつ〝C・H・O (サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション)〟がクーデターを起こす。
それは新たな激動の時代の始まりであり……。
研修に参加していた一六才の少年、出雲桃太が〝鬼退治の舞台〟に登るきっかけとなる。
あとがき
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