第196話 夏季休暇と戦勝パーティ
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西暦二〇X二年六月三〇日。
出雲桃太と焔学園二年一組は、神鳴鬼ケラウノスを取り込んで、八岐大蛇〝第四の首〟となった、四鳴啓介を討伐し、日本、あるいは地球を電気異常の危機から救った。
明けて七月。冒険者組合の主力となった勇者パーティ〝N・A・G・A〟と、四鳴家残党を中心とするテロリスト団体〝S・E・I 〟の抗争はいまだ続いていたものの――。
冒険者組合の代表にして、冒険者育成学校〝焔学園〟の校長たる獅子央孝恵は、二年一組は戦闘から離れて、異界迷宮カクリヨの中でも比較的安全な、第六階層〝シャクヤクの諸島〟で傷と疲れを癒すよう慮った。
『ここから先は、ぼく達大人の仕事なんだな。投降した〝S・E・I 〟のメンバーは一度地上に戻ってもらうけど、四鳴啓介に参加を強制されていた呉陸羽ちゃん達、焔学園の生徒は絶対に守るから安心するんだ、な。二年一組の皆には一足早い夏季休暇を認めるから、のんびりして欲しい。食料はもちろん、水着やレジャー道具も追って送るんだな』
孝恵がモグラ型の〝式鬼〟を用いて、第五階層〝妖精の湖畔〟へ送ってきた手紙には、そのようにしたためられていた。
「「やすみ、だああっ!!」
修羅場を乗り越えたといっても、二年一組の研修生達は、まだ思春期の少年少女。降って湧いた長期休暇に、全員が喜びのあまり即興のダンスを踊った。
「「うおおおっ、遊ぶぞおおっ」」
焔学園二年一組は、苦しい迷宮内移動もなんのその、野生のモンスターを蹴散らしながら、意気揚々と目的地へたどり着き、色鮮やかな花と緑が美しい島々にキャンプを設営した。
「救援部隊が来たぞー」
「〝S・E・I 〟も降伏したってさ」
「いやったああ、祭りだ祭り!」
そうして人心地がつき、夏季休暇の開始日となった七月一一日。
新型の蒸気機関アシスト付き大八車を用いて、大量の支援物資を持ち込んだ救援部隊が折よく到着。
四鳴啓介の死後、〝S・E・I 〟残党をまとめた四鳴葛与が警察に自首したという情報をもたらしたことから、焔学園二年一組は改めて戦勝パーティを開いた。
孝恵校長が気を利かせたのだろう、派遣された救援部隊は、調理師免許や製菓衛生師の資格を持つ冒険者が多数所属することで有名なパーティ〝Chefs〟であり、迷宮内では得るのが難しいお菓子パーティを開いてくれた。
「へえ、ケーキバイキングなんだ。まさか、カクリヨの中で食べられるなんて思わなかった」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、調理道具が山と持ち込まれた特大テントの中で、白いテーブルクロスの上に飾られた一口大のケーキを前に目を輝かせた。
「サメー、宝石箱みたいサメエ。クマ国だと洋菓子は珍しいんだサメエ……」
青い修道服に似たサメの着ぐるみをかぶった、銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、赤、白、黄、緑、茶と様々な色で飾られた菓子に、うっとりと見惚れている。
「桃太おにーさん、食べさせ合いっこするサメエ」
「うん、紗雨ちゃんから一口どうぞ」
桃太はフォークを手に取って、テーブルに並ぶ色とりどりのケーキから、まずはショートケーキを選び……。
「あむっ」
赤い苺と白いクリームで飾られたケーキを、紗雨の小さな口に寄せた。
「むふー、とっても甘いサメエ」
桃太は、紗雨がフォーク先のケーキをついばむ様子を見て、あたかも水族館で餌付けしてるような、倒錯的な気分になってしまう。
「桃太おにーさん、お返しにチョコレートケーキをどうぞサメエ」
「じゃあ、遠慮なく」
今度は、桃太が紗雨の差し出した黒いケーキかじると、カカオのややビターな苦味とクリームの芳醇な甘みが、口内で絶妙のハーモニーを奏でた。
「美味しい」
「サメエっ♪」
若い二人の姿は、仲睦まじいカップルに見えただろう。
あとがき
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