表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/792

第196話 夏季休暇と戦勝パーティ

196


 西暦二〇X二年六月三〇日。

 出雲いずも桃太とうた焔学園ほむらがくえん二年一組は、神鳴鬼かみなりのおにケラウノスを取り込んで、八岐大蛇やまたのおろち〝第四の首〟となった、四鳴しめい啓介けいすけを討伐し、日本、あるいは地球を電気異常の危機から救った。

 明けて七月。冒険者組合の主力となった勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟と、四鳴家残党を中心とするテロリスト団体〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟の抗争はいまだ続いていたものの――。

 冒険者組合の代表にして、冒険者育成学校〝ほむら学園〟の校長たる獅子央ししおう孝恵たかよしは、二年一組は戦闘から離れて、異界迷宮カクリヨの中でも比較的安全な、第六階層〝シャクヤクの諸島〟で傷と疲れを癒すようおもんばかった。


『ここから先は、ぼく達大人の仕事なんだな。投降とうこうした〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟のメンバーは一度地上に戻ってもらうけど、四鳴しめい啓介けいすけに参加を強制されていたくれ陸羽りうちゃん達、焔学園の生徒は絶対に守るから安心するんだ、な。二年一組の皆には一足早い夏季休暇を認めるから、のんびりして欲しい。食料はもちろん、水着やレジャー道具も追って送るんだな』


 孝恵がモグラ型の〝式鬼しきおに〟を用いて、第五階層〝妖精の湖畔こはん〟へ送ってきた手紙には、そのようにしたためられていた。


「「やすみ、だああっ!!」


 修羅場を乗り越えたといっても、二年一組の研修生達は、まだ思春期の少年少女。降って湧いた長期休暇に、全員が喜びのあまり即興そっきょうのダンスを踊った。


「「うおおおっ、遊ぶぞおおっ」」


 焔学園二年一組は、苦しい迷宮内移動もなんのその、野生のモンスターを蹴散らしながら、意気揚々(いきようよう)と目的地へたどり着き、色鮮やかな花と緑が美しい島々にキャンプを設営した。


「救援部隊が来たぞー」

「〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟も降伏したってさ」

「いやったああ、祭りだ祭り!」


 そうして人心地がつき、夏季休暇の開始日となった七月一一日。

 新型の蒸気機関アシスト付き大八車を用いて、大量の支援物資を持ち込んだ救援部隊が折よく到着。

 四鳴しめい啓介けいすけの死後、〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟残党をまとめた四鳴しめい葛与かつよが警察に自首したという情報をもたらしたことから、焔学園二年一組は改めて戦勝パーティを開いた。

 孝恵校長が気を利かせたのだろう、派遣された救援部隊は、調理師免許や製菓衛生師の資格を持つ冒険者が多数所属することで有名なパーティ〝Chefs(シェフズ)〟であり、迷宮内では得るのが難しいお菓子(スイーツ)パーティを開いてくれた。


「へえ、ケーキバイキングなんだ。まさか、カクリヨの中で食べられるなんて思わなかった」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、調理道具が山と持ち込まれた特大テントの中で、白いテーブルクロスの上に飾られた一口大のケーキを前に目を輝かせた。


「サメー、宝石箱みたいサメエ。クマ国だと洋菓子は珍しいんだサメエ……」


 青い修道服に似たサメの着ぐるみをかぶった、銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速たけはや紗雨さあめも、赤、白、黄、緑、茶と様々な色で飾られた菓子に、うっとりと見惚れている。


「桃太おにーさん、食べさせ合いっこするサメエ」

「うん、紗雨ちゃんから一口どうぞ」


 桃太はフォークを手に取って、テーブルに並ぶ色とりどりのケーキから、まずはショートケーキを選び……。


「あむっ」


 赤い苺と白いクリームで飾られたケーキを、紗雨の小さな口に寄せた。


「むふー、とっても甘いサメエ」


 桃太は、紗雨がフォーク先のケーキをついばむ様子を見て、あたかも水族館で餌付けしてるような、倒錯的な気分になってしまう。


「桃太おにーさん、お返しにチョコレートケーキをどうぞサメエ」

「じゃあ、遠慮なく」


 今度は、桃太が紗雨の差し出した黒いケーキかじると、カカオのややビターな苦味とクリームの芳醇ほうじゅんな甘みが、口内で絶妙のハーモニーを奏でた。


「美味しい」

「サメエっ♪」


 若い二人の姿は、仲睦まじいカップルに見えただろう。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日付を見ると第三部は第二部の直後から。 清水砦の宴はどちらかと言うと死者への手向けで、こっちの戦勝パーティは自分たちへのご褒美って感じですね。 Chefs、迷宮内で洋菓子を作れるとは、実はク…
[一言] >若い二人の姿は、仲睦まじいカップルに見えただろう 今なら、パンチングマシーンが繁盛する気がする (植物素材の人形に15cm程の釘をセットしながら)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ